アベノミクスは時間稼ぎに過ぎない

【瀧本】なるほど。これからの政治は「皆さんに残念なお知らせがあります」というアナウンスが多くなりますよね。ただ、バブル景気を知っている世代は、景気さえ上向けば何とかなる、と考えている節がありますね。

【小泉】このままで何とかなるという勘違いをしている人は多いですね。アベノミクスで株価は上がり、円高から円安となり、失業率は3.6%まで下がり、有効求人倍率はリーマンショック後の0.42倍から1.07倍まで上がりました。そうしたデータを見れば、間違いなく経済は回復しています。しかしアベノミクスは時間稼ぎに過ぎません。どの政党が政権をとっても、誰が総理になっても、取り組まなければならない構造的な課題がある。アベノミクスはゴールではない。

【瀧本】今年5月、T・クーンの「パラダイム論」を日本に紹介した科学史家の中山茂先生が亡くなりました。クーンの研究によれば、「天動説と地動説」のように支配的な学説が一気に変わる要因は、論争による勝利より、学者の世代交代です。

ある考え方に縛られた人は、考え方を変えられない。明治維新で若い世代が活躍できたのは、上の世代が下の世代にチャンスを与えたからです。自分たちの考え方は変えられないから、若い人に任せてみようと決断した。たとえば伊藤博文は44歳で初代の総理大臣となっています。これは現在まで最年少の記録です。もしかすると、小泉さんがこの記録を破るかもしれませんが。

【小泉】託されたチャンスは一度でも失敗すれば即退場です。僕は野党の1回生議員のとき、NHKの全国中継がある予算委員会で、何度も質問に立ちました。先輩議員を差し置いて、異例の抜擢です。党内には「新人の小泉がここで失敗すればおしまいだ」という思惑もあったようです。だから僕は党の指示を尊重し、質問を選びませんでした。周りを黙らせるには、結果を出すしかなかったからです。

【瀧本】小泉さんのやり方は起業家のようです。初当選でも、猛烈な逆風の中で出馬して勝っている。ここで失敗すればゲームオーバーという状況を何度もくぐり抜けている。リスクを取り続けてきたからこそ、成長も速い。

【小泉】政治家はリスクだらけです。言葉をひとつ間違えただけで、政治生命が終わることがある。僕はそれをわかったうえで、人前で話しています。厳しい世界ですが、若い人たちにもぜひチャレンジをしてほしい。

【瀧本】ここで小泉さんの話を聞いて、「小泉さんはすごい。小泉さんについていこう」と考えてしまったとすれば、今日の対談は失敗です。持ち帰ってほしいことは「目の前の課題は、自分がリーダーとなって変えていこう」という姿勢です。これからの課題は、ひとつの「根本原因」があるわけではなくより複雑です。だから一人ひとりの試行錯誤が欠かせません。

【小泉】困難な課題と直面せざるをえない時代に、政治に求められることは論理だけではないと思います。「この人が言うならやってみよう」という無形の説得や納得感、信頼が必要になる。それらを取り戻し、育める政治家を増やさなくてはいけません。最終的には、その人が本気かどうか、全力で走り続けているかどうか。そこに尽きると思います。

僕は本物の仲間についてきてほしい。自分一人の力では何もできない。それが政治家ですから。

※本稿は、2014年5月18日開催の小泉進次郎氏×瀧本哲史氏トークセッション「武器としての仲間」(東京瀧本ゼミ主催)を編集部の責任において要約、再構成しました。

衆議院議員
小泉進次郎
(こいずみ・しんじろう)
内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。1981年生まれ。2004年関東学院大学経済学部卒業。06年米国コロンビア大学大学院にて政治学修士号を取得。父である小泉純一郎元首相の秘書を経て、09年衆院選に神奈川11区から出馬し、初当選。当選2回。

京都大学客員准教授、エンジェル投資家
瀧本哲史
(たきもと・てつふみ)
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー&カンパニーへ。主にエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事する。3年の勤務を経て投資家として独立。著書に『君に友だちはいらない』などがある。
(唐仁原俊博=構成 小倉和徳=撮影)
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