数千円のワインでも「財閥系」の顧客は満足
では、岡田さんのお店で本当のお金持ちのお客はどうだったのか。実は岡田さんはそうしたお金持ちたちのことを「財閥系のお客さま」と呼ぶ。名だたる名家のご当主や奥様、それに御曹司やご令嬢が来店していたのだろう。
「皆さま基本コースを思う存分楽しんでいただいておりました。私も店の名に恥じぬよう、一流の素材を揃え、その味を最大限引き出すように料理しています。すると一度口にしていただいただけで、こちらから何の説明をしなくても、素材や調理のことをすぐに理解していただけるのです。ワインだって『今日の料理に合わせたものを』と注文を頂戴することがほとんどで、それが1本数千円のものであっても、十分に満足していらっしゃいました」
そう語る岡田さんの表情もどこか満足げだ。シェフとしての腕を超一流のお客さまに認めていただいたという自信があるからなのだろう。
財閥系のお客さまともなれば、お金だけでなく、名誉も地位もある人たち。もしも彼らにないものがあるとしたら、それは「見て」「聞いて」「味わって」楽しむものをつくり出す“才能”なのだ。岡田さんのように料理の腕前を一度認められると、息の長い常連客、ファンになってもらえるようになる。
お金の支払い方も実にスマートだ。財閥系のお客が仲間と4人で来た場合、「この前はあなたが支払ってくれたので、ここは私が」「それなら、帰り際に予約する次回は私が持ちますから」とお互いを尊重しながら、さっとカードで支払いを済ます。岡田さんや店のスタッフへのチップの渡し方も粋で、銀座の高級和紙店で特注した自分専用のポチ袋をポケットに忍ばせておき、「いつもありがとう」といいながら、そっと渡してくれたそうである。
それが成金になると、これみよがしにブラックカードを出してくる。お金をつかうことで自分を誇示したいので、当然、支払いは全部自分持ちだ。