“黒字”と“赤字”を見分ける分析力が必要
結果はどうなったか? 半年後、1誌を除いて全部黒字になりました。赤字のままだった1誌は約束通り廃刊しましたが、そのチームの社員もリストラしませんでした。このチームは、3カ月に1回ぐらい発行するムック部門として再出発し、成功を収めました。みな黒字化できたのです。その年の出版事業部の忘年会で僕は挨拶をしました。
「本当に、みんなよく頑張ってくれた」そのひと言で僕は声に詰まって黙ってしまった。社員に涙を見られたのは、そのときが初めてです。出版事業は背水の陣から復活し、快進撃が続いて23誌まで雑誌が拡大。ソフトバンク出版部門の大繁栄期が訪れたのです。僕の選択は結果的に正しかったのですが、もちろん即刻撤退のほうがベターなこともあります。情に流されて赤字を垂れ流すより「見切り千両」が正しいこともある。
重要なのは、大赤字で経営判断が求められた場合、「本当に全部ダメ」なのか「一部に生きている根っこがある」のかを見極めることです。腐っている根っこだけを潔くスパンと切ると、まだ生命力が残った根っこの一部からまた新たな芽が誕生することがあります。経営判断は自分の思い込みやどんぶり勘定ではなく、その事業の中に黒字の“部分”があるかないかを把握し、断ち切るにしても、部分(黒字)だけは生かし、腐ったところ(赤字)のみ切る、正確な分析力が必要です。その作業は腕利きの外科医と同じです。彼らは複雑な人間の身体をさまざまな方法で精密検査し、探り当てた病巣部分のみを切除します。可能な限り身体を痛めない。切り刻み、不要な部分を捨て去って治療した気になっているのは単なるヤブ医者です。