怪しくて魅力的な何か
――若新さんは鯖江市のある福井県の出身だそうですね。どのような少年だったのですか。
僕が生まれ育ったのは福井県若狭町といって、家の周りには信号機も自販機もないような山村地域です。両親はともに学校の先生でした。小さい頃は勉強ができたので、両親に期待されて育ちました。
でもちょっと変わっていたのは、小さい頃から「なぜ自分は自分なんだろう」と考える偏屈な哲学少年だったこと。中学生でビジュアル系バンドにはまったことで、自意識過剰な自分が一気に覚醒され、自分の髪型やスタイルにヘンなこだわりができてきて、友達との関係にも悩みました。自分という存在が過剰に気になってしまったことで、自分と社会とのズレやギャップも過剰に意識するようになったのだと思います。
学生のときよく言われたのは、「フツーには就職できないよ」。起業する道を選び、卒業前から先輩と会社を立ち上げたものの、あとから入ってきた社会人経験のある人たちに「組織はこうあるべきだ」とか「その髪型はビジネスではマイナスだ」などと言われ、うまく適応できず辞めてしまったんです。その後大学院に入り、産業・組織心理学を学びました。
卒業後は人材・組織コンサルタントとして独立し、企業の新しい採用のあり方や、個性や多様性を活かす人材育成・組織づくり、コミュニケーション開発をテーマに活動してきました。この春からは大学教員としても、実験的な実証研究を行っていきます。
――若新さんが今後目指すものは何ですか。
僕がいまもっとも関心があるのは、報酬やポスト、称賛といった外的要因に代わる新たな動機付けです。昔は給料が高いとか、社内で出世するとか、褒められる、叱られるといった外的に与えられるものがモチベーションを生んでいましたが、社会が成熟したこれからの時代はそうはいかないのだと思います。つまり、「アメでもムチでも頑張れない」のです。その代わり自分の内側から沸き起こる何かが必要です。僕はそれが何かを探りたいのです。
その点、NEET株式会社に集う若者たちには、決まった給料を払う人もいなければ、仕事や行動を管理・指示する人もいません。彼らを褒める人も、叱る人もいません。それでも彼らは毎日仲間と打ち合わせしたり、ケンカしたり、議論したりしながら何かを生み出そうとしています。
そこには、コミュニケーションのあり方や人と人との「関係性」が大きく影響しているのだと思います。そこから生まれる「怪しくても魅力的な何か」を探ることで、私たちが求める働き甲斐、個性の発揮、多様なライフキャリアを実現していくためのヒントが得られるのではと考えています。