現在「おもてなし」がキーワードとなりつつあるのは、これまでの経済合理性に基づく経営に対する反動があると考えられる。効率を最重要視するビジネスは、究極的には人の手を介さずすべての商取引が自動化されることを理想とする。アマゾン・ドット・コムはその経済合理性を追求する代表的企業と言えるだろう。

その一方で国の別を問わず、人は他者とのふれあいを求め、自分のことを丁寧に扱われることを好む。日本ではバブルが弾けた1990年代初頭から「心の時代」と言われるようになったが、リーマン・ショック以降、世界の人々も他者との交流を求める動きが強まっている。

しかし付加価値の高い日本のおもてなし文化を、世界各地でのビジネスへ展開するときには注意が必要だ。サービスの語源は「奴隷」にあり、トレーニングでマニュアルを徹底させればいい。だがホスピタリティは語源が「客人」であるように、マニュアルに留まらない対応が求められ、担当者それぞれに対してのコーチング(対話指導)が必要になる。マニュアルを厳守するだけのサービスは、ホスピタリティがあるとはいえない。

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「おもてなし」にはサービスよりホスピタリティ

たとえば中国では、飲食店での膝をついての接客が「たいへん丁重に扱われている」と感じさせることから人気を呼んだ。だが欧米では必要以上にへりくだった態度は「礼を逸している」と思われかねない。「日本流のおもてなし」といってもマニュアルを覚えさせ、和服の格好を整えるだけでは世界には通用しない。

相手の立場を細やかに気遣うという日本のおもてなし文化は、数百年の歴史を持つ。その精神を踏まえてホスピタリティを展開できれば、強力な差別化要因となるだろう。

同志社女子大学特任教授 山上 徹 
1943年生まれ。73年日本大学大学院商学研究科博士課程満期退学。日本ホスピタリティ・マネジメント学会会長。著書に『観光の京都論』『ホスピタリティ精神の深化』などがある。
(構成=大越 裕 撮影=プレジデント編集部)
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