猥雑さが残る「南口」に向かう視線
前述の錦糸町出身のA氏は「小中学校の同級生には自営業の子供が多かったが、今も錦糸町に残っているのは、土地や不動産があった人だけだ」と話す。住宅情報サイトLIFULL HOME'S(ライフルホームズ)の住まいインデックスによると、錦糸町駅のマンション賃料は2016年の時点で18万円程度と、東京都の平均賃料よりも約2万円安かった。しかし、足元では29万円を超え、都内の平均を2万円以上上回る逆転現象が起きている。かつての下町を構成していた多くの地元住人は地価の高騰に耐えきれず街を去り、彼らを押し出す形で入れ替わるように新たに建ったマンションにエリートたちが住むという構図だ。
ジェントリフィケーションは世界的な現象であり、ニューヨークやロンドンをはじめ、世界の主要都市で社会問題となっている。日本は欧米に比べ限定的だとされていたが、まさに錦糸町をはじめとした下町が最前線となっているのだ。
資本力を武器にかつての住民を押し出し、錦糸町を人気住宅街に押し上げた新規住民たちだが、その視線は猥雑な空気を残した南口に向かう。錦糸町北口のマンションで暮らす、小学生を育てる母親のC氏は「中学受験のための子供の塾があるので南口に行かざるを得ないが、あまり子供を近づけたくない環境だ」と眉をひそめ、「繁華街が錦糸町という街のイメージを悪くしている」と一刀両断する。
「浄化」されていく繁華街の行く末
子育て住人が狙うのが、繁華街の「浄化」だ。2024年、南口にある飲食店が客同士のわいせつな行為を店内で手助けしたとして、店長の男が逮捕された。飲食店とは名ばかりで、客同士の性行為を幇助するハプニングバーだった。乱交パーティーを頻繁に開催するなど派手に動いていたことが一因だが、住民からのタレコミもあったとされる。23年には女子中学生に客の接待をさせていたとしてガールズバーの店長が逮捕される事件もあった。「錦糸町では珍しい話でもないが、時代的にもう許されなくなったのだろう」(錦糸町出身のA氏)。
街の浄化という点では行政側も思惑は一致しており、住民からの要望を受ける形で、路上でのキャッチや客引きの取り締まりが強化されている。ビザの厳格化や円安も手伝い、外国人が働く店も減りつつあるという。賃料の上昇やインフレも加わり、近年、ガールズバーやキャバクラ、メンズエステといった夜の店も徐々に姿を減らしている。
コンプライアンスという概念が世の中を席巻して久しいが、「飲む・打つ・買う」という三拍子揃った夜の街からベビーカーが行き交う街へと変わっていく錦糸町こそが、世相の移り変わりを象徴しているのかもしれない。
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