高級住宅街より人気なワケ
そんな錦糸町だが、半蔵門線で大手町まで5駅で15分もかからないというアクセスの良さが見直され、近年は各種「住みたい街」ランキングでも上位に位置するなど、夫婦共働きのパワーカップルに選ばれる街となった。不動産デベロッパーの住宅部門で働くB氏は「いまの30代や40代の人たちは昔のイメージを知らないし、職住近接という点では中央線や田園都市線のいわゆる高級住宅街といわれる街よりもよほど人気だ」と話す。
錦糸町が住宅街として人気を博すようになった象徴が、東京建物が2006年に分譲したタワーマンション、「ブリリアタワー東京」だ。もともとはセイコーの工場跡地だった場所を再開発し、商業施設「オリナス」との一帯開発でタワマンを建てたという経緯がある。当時は錦糸町という地名のイメージが悪かったため、あえて錦糸町という単語を使わずに「東京」という名前を冠したことは不動産業界で今でも語り草となっている。
もっとも、タワマンが開発されたことで大手企業の社員や弁護士、医師といった高所得者のファミリー世帯が大量に住むようになった。併設されたオリナスをはじめ、タワマン住民向けの店舗や施設が次々と開業したことで利便性が増し、さらに高所得者層が流入。マンション価格が上昇するという好循環が発生した。築20年を迎えたにもかかわらず、ブリリアタワー東京は分譲時から3倍以上の価格(※)で取引されるようになっている。
※2026年10月現在、売り出し中の物件価格は約1億5000万円から3億3000万円
急速に進む「住民の入れ替え」
歓楽街から子持ちファミリーに選ばれる街に生まれ変わるにあたり、行政面でのテコ入れもあった。墨田区は東京スカイツリーの開業に合わせるように、駅のすぐ近くにありながら治安悪化の要因となっていた錦糸公園の大規模なリニューアルを実施。総合体育館の整備に合わせ、ベンチの真ん中に手すりを設置した「排除ベンチ」に切り替えることで横になって休めないようにしたり、夜間巡回や声かけをしたりと、区を挙げた取り組みでホームレスを一掃することに成功した。また、かつての名物だった駅前の放置自転車も、大規模駐輪場の整備や即日撤去の徹底により一変した。
民間と行政が手を取り合ってイメージ刷新に動いた結果が、冒頭のようなにぎわいだ。錦糸公園がある駅の北側では次々と小・中規模マンションが建ち、1億円を超えるような価格にもかかわらず高い人気を誇っている。
もっとも、住宅地としての人気上昇という光は、一部の人々にとって毒となる。現在の錦糸町で起こっているのが、エリートの流入によって居住者の階層が上昇し、これまで住んでいた地元の人々が暮らせなくなる「ジェントリフィケーション(都市の富裕化)」だ。特に錦糸町駅の北口では、前述したように住宅価格や家賃の高騰によって自然発生的に住民の入れ替えが進んでいる。


