子どもの性問題行動は大人につながるか

また、性的な問題行動をする子どもは「将来の加害者」になるかについては、以下のような研究があります。

カナダの研究者パトリック・ルシエらは、過去80年の世界中で発表された青少年の性的犯罪加害者の研究から、約3万のデータを分析しました。その結果、少年の性的再犯率は性犯罪以外の一般の犯罪に比べ、一貫して低いこと(8%程度)、子どもの性問題行動は特殊な犯罪ではなく、広い非行の一部として理解すべきだと報告しています(*1)。

宮口幸治『なぜあの子が性加害者になったのか』(朝日新書)
宮口幸治『なぜあの子が性加害者になったのか』(朝日新書)

成人の性犯罪者の性的再犯率は、国際的なメタ分析では概ね10〜15%程度、長期追跡では20%前後とされていることもあり、成人の性犯罪モデルを子どもに当てはめるのは誤りといいます。

アメリカのマイケル・コールドウェルも3万人規模のメタ分析から、少年の性的再犯率は平均約5%と低く、また再犯の多くは性的ではなく、少年の性問題行動は持続的な犯罪傾向とは必ずしも結びつかないとしています(*2)。

これらのレビュー研究では成人の性犯罪者を前提とした厳格な監視や管理政策、リスク評価ツールをそのまま少年たちに適用することは不適切であり、むしろ発達的・環境的要因に基づく支援が重要であると指摘しています。性加害少年は非性的犯罪に関与する若者と類似した発達的背景やリスク要因を共有しているからです。

*1 Lussier, P., et al.(2024)“A meta-analysis of trends in general, sexual, and violent recidivism among youth with histories of sex offending.” Trauma, Violence, & Abuse, 25(1), 54–72.
*2 Caldwell, M. F.(2016)“Quantifying the decline in juvenile sexual recidivism rates.” Psychology, Public Policy, and Law, 22(4), 414–426.

子どもを性犯罪者にしないための支援

さらに、成人の性犯罪者の多くは、幼少期から性的な問題行動を示していたわけではなく、思春期以降に性的な問題が顕在化する「遅発型」であることが指摘されています。

このことを踏まえると、子ども時代の予防において重要なのは、性の問題行動を起こした、あるいは将来的に起こす可能性のある特定の「予備軍」を見つけ出すことではありません。むしろ、すべての子どもを対象として、共感性や対人関係能力の育成、同意や境界に対する理解の促進、家庭環境の安定など、発達支援を中心とした取り組みを行うことが大切なのです。

ランドセルを背負ってグラウンドを駆ける小学生
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです

すなわち、子どもを将来性犯罪者にしないためには、狭い意味での性教育にとどまらず、広い意味での社会性教育や環境整備が大きな役割を果たすと考えられます。

また、成人による性犯罪と子どもの性的問題行動(少年による性犯罪を含む)では、その背景や発達的な意味合いが異なることが知られています。そのため、本書『なぜあの子が性加害者になったのか』の第1章で述べたような成人の事例を前提として、成人と同じ方法で子どもに対応すると、支援の方向性がずれてしまう可能性があります。

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