子どもの性の問題行動の原因は、大人の場合とどう異なるのか。『なぜあの子が性加害者になったのか』(朝日新書)を執筆した児童精神科医の宮口幸治さんは「現在の世界的研究では、子どもの性問題行動は、単純な性的逸脱ではないとされている」という――。
教室に並んだ机
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大人と事情が異なる子どもの性的問題

子どもの性的問題行動は、成人の場合とどう違うのでしょうか。

子どもの性的問題は成人とはやや事情が異なります。現在、子どもの性問題行動は、単なる「性的逸脱」や「モラルの欠如」としてではなく、発達、情動、家庭環境、認知などの問題が相互に作用して発生するものとして理解される方向へ進んでいます。

近年の研究を総括したオーストラリアのリン・マクファーソンらは、「子どもを“小さな性犯罪者”として扱うべきではない」と述べ、問題行動を子どもの発達的・心理社会的困難の表れとして理解する必要性を強調しています。まとめると、子どもの性的問題行動の要因として大きく4つ挙げられます。

第一に重要視されるのが、社会情動・自己制御の未熟さです。多くの研究で、性問題行動を示す子どもには、感情調整困難、衝動性、共感性の弱さ、社会的問題解決能力の低さなどがみられることが報告されています。

アメリカのナターシャ・エルコヴィッチらは、外在化問題や行動調整の弱さを中心要因として整理していますし、ニューヨークを拠点とする子どものメンタルヘルス・発達支援・学習支援に特化した機関Child Mind Instituteのレビューでも、子どもの性問題行動の治療の中心として衝動統制や感情調整を挙げています。現在では、問題の背景にADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、境界知能などの神経発達的な脆弱性が存在する場合も多いと考えられています。

低年齢児では「逸脱」より「模倣」

第二に、子どもへの不適切な性情報・性的な環境曝露があります。子どもの性問題行動の世界的権威であるアメリカのウィリアム・フリードリッヒは、性問題行動を「模倣学習」の観点から説明し、大人による性的会話、ポルノ、性暴力、強制的関係性などへの曝露が子どもの行動形成に影響すると指摘してきましたし、最新の研究でも、オンラインポルノやSNSなどを通じた性的刺激への子どものアクセスがリスク要因として重視されています。

特に低年齢児では、性的行動が「逸脱」というよりも、見聞きした行動の模倣として出現することが多いとされています。Child Mind Instituteも“子どもは見たものをまねする”と述べ、性的な環境曝露の影響を指摘しています。

第三に、家庭・環境ストレスです。近年の国際研究では、虐待、家庭不和、家庭内暴力、監督不足、愛着の不安定さなどの幼少期逆境体験が、性問題行動と強く関連することが繰り返し報告されています。

マクファーソンらの報告でも、多くの子どもが虐待を経験していると述べられていますし、アメリカのメアリー・ハリスらは、不安定な家庭や家族支援の不足を重要な背景要因として述べています。子どもの問題だけでなく、家庭全体への支援や安全な環境調整が不可欠と考えられているのです。