「悪意」より「理解不足」のケースも

第四に、近年特に重視されているのが、境界・同意・対人理解の不足です。従来の研究では、この領域は「社会認知」や「対人理解」の問題として扱われていましたが、現在では「同意」や「身体的自己決定権」という概念が強調されるようになりました。

UNESCO(国際連合教育科学文化機関)の包括的性教育(CSE)に関する国際ガイドラインでは、プライベートゾーン、身体境界、距離感、拒否の理解、相手の嫌がりサインの理解などを発達に応じて教えることが推奨されています。

特にASDなどでは、暗黙の社会ルールや非言語的サインの理解が難しい場合があり、「悪意」よりも「理解不足」が背景にあるケースも少なくないとされます。

ノートに描かれたASDの文字と聴診器
写真=iStock.com/MARIA GARCIA
※写真はイメージです

このように、現在の世界的研究では、子どもの性問題行動は単純な性的逸脱ではなく、①社会情動・自己制御の未熟さ、②不適切な性情報・性的な環境曝露、③家庭・環境ストレス、④境界・同意・対人理解の不足といった要因の相互作用として理解されています。

そして支援もまた、罰や管理ではなく、発達支援・トラウマ支援・家族支援・社会情動教育を統合した包括的アプローチへ移行しています。

複数要因が絡む子どもの性的問題行動

また、子どもの性的問題行動で重要なのは、“被害経験がある=将来加害者になる”ではないという点です。

これまでの研究レビューでも、虐待やトラウマは性的な問題のリスクを高めうる一方で、決定論ではないと指摘されています。むしろ、複数の逆境が重なり、支援が乏しく、家庭の監督や専門的な治療がない場合にリスクが高まるという理解の方が正しいでしょう。

加えて注意すべき点として“性の問題だけにとらわれない”ことです。性の問題行動をもつ子どもは果たして性の問題しかないのか、という点です。実際、性の問題行動さえなくなれば他に問題が何もないということは少なく、それ以外にも万引きや傷害事件などを繰り返してきたといったことも少なくありません。

たいてい、対人関係の問題、感情の問題、いじめの問題、発達の問題、認知機能の問題、学業の問題、家庭環境の問題などが背景に隠れていて、そういった問題が背景にあり、たまたま性の問題行動につながったというケースも少なくありません。

以上のように、子どもの性的問題行動は、複数の要因の影響によって生じることが多く、適切な支援によって改善する可能性のある可塑的な行動と理解される一方で、大人の性犯罪は、性的嗜好や認知の歪み、権力関係などに基づく意図的な行動として理解され、両者は本質的に異なる現象です。