定説の根拠が崩れていく
これは、かつて、酵母や線虫、ハエ、マウスなどを用いた研究において、カロリーを制限すると寿命が延びるという結果が数多く報告されてきたことによります。そのため長い間、「食べる量を減らせば寿命が延びる」と考えられてきたのです。しかし、これらの実験をよく見直してみると、重要な事実が浮かび上がってきます。
「食べる量を減らしたグループ」の比較対象となっていた「普通に食べさせたグループ」が、実はまったく普通ではなかったのです。たとえば、酵母の実験では、培養液に含まれる糖質(ブドウ糖)の濃度が、自然界ではありえないほど高い設定になっていました[8]。線虫の実験でも、本来の環境では考えられない「24時間食べ放題」の状態で飼育されていました[9]。
つまり研究が示していたのは、「カロリー制限で寿命が延びた」のではなく「糖質・カロリー過剰で寿命が縮んでいただけ」という可能性です。実際、線虫の実験では興味深い結果が報告されています。途中までカロリー制限をして寿命が延びたように見えた線虫も、その後に通常の餌に戻すと、最終的な寿命には差がなくなってしまったのです[9]。
本当に減らすべきは糖質
もし本当にカロリー制限そのものに寿命延長効果があるなら、途中でやめても一定の効果が残るはずですが、そうはならなかった。これは、カロリー制限自体が寿命を延ばしたのではなく、単に「過剰な糖質とカロリーとを一時的に避けていただけだった」可能性を示しています。
さらに、カロリー制限をした線虫では、からだの機能――たとえば動く能力など――が若々しく保たれていたわけでもありませんでした。相対的な機能低下の速度は、カロリー制限による影響をまったく受けなかったのです。本当にアンチエイジング効果があるなら、寿命だけでなく機能も維持されるはずですが、そうはならなかったのです――[40]。
これらの動物実験が示している本当のメッセージは、むしろ逆です。「カロリーを減らせば健康になるのではない」「過剰な糖質とカロリーが、老化と病気の進行を早める」「老化をゆっくりにしたいなら糖質摂取を適正にするとよい」つまり、私たちが見直すべきなのは、単なるカロリー量ではありません。
本当に減らすべきなのは、血糖値とインスリン(血糖値を下げるホルモン)を大きく揺るがす「糖質の過剰摂取」なのです。
▼参考文献
[1] アカゲザルのカロリー制限と疾病・死亡
論文名:Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys
掲載誌:Science. 2009;325(5937):201-204.
URL:https://doi.org/10.1126/science.1173635
[2] 米国国立老化研究所のアカゲザル研究
論文名:Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study
掲載誌:Nature. 2012;489(7415):318-321.
URL:https://doi.org/10.1038/nature11432
[3] アカゲザルの骨への長期カロリー制限の影響
論文名:Skeletal effects of long-term caloric restriction in rhesus monkeys
掲載誌:AGE (Dordrecht). 2012;34(5):1133-1143.
URL:https://doi.org/10.1007/s11357-011-9354-x
[4] CALERIE試験:臓器・組織の大きさへの影響
論文名:Effect of 2-year caloric restriction on organ and tissue size in nonobese 21- to 50-year-old adults in a randomized clinical trial: the CALERIE study
掲載誌:The American Journal of Clinical Nutrition. 2021;114(4):1295-1303.
URL:https://doi.org/10.1093/ajcn/nqab205
[5] CALERIE試験:骨代謝・骨密度への影響
論文名:Effect of Two-Year Caloric Restriction on Bone Metabolism and Bone Mineral Density in Non-Obese Younger Adults: A Randomized Clinical Trial
掲載誌:Journal of Bone and Mineral Research. 2016;31(1):40-51.
URL:https://doi.org/10.1002/jbmr.2701
[6] Look AHEAD試験:心血管疾患への影響
論文名:Cardiovascular effects of intensive lifestyle intervention in type 2 diabetes
掲載誌:The New England Journal of Medicine. 2013;369(2):145-154.
URL:https://doi.org/10.1056/NEJMoa1212914
[7] Look AHEAD試験後の高齢期の身体機能障害
論文名:Late-life disability following the action for health in diabetes (Look AHEAD) trial
掲載誌:The Journals of Gerontology: Series A. 2026;81(3):glaf245.
URL:https://doi.org/10.1093/gerona/glaf245
[8] 酵母の寿命と食事制限に似た介入
論文名:An intervention resembling caloric restriction prolongs life span and retards aging in yeast
掲載誌:The FASEB Journal. 2000;14(14):2135-2137.
URL:https://doi.org/10.1096/fj.00-0242fje
[9] 線虫の食餌制限と寿命
論文名:Dietary deprivation extends lifespan in Caenorhabditis elegans
掲載誌:Aging Cell. 2006;5(6):515-524.
URL:https://doi.org/10.1111/j.1474-9726.2006.00241.x
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