心血管疾患の予防効果はない

これは人間でも同様で、人を対象とした研究で、カロリー制限により筋肉量と骨密度が低下することが確認されています[4][5]。つまり、「体重は減るがからだは弱くなる」という現象が起きていたのです(CALERIE試験)。

さらに、太っている2型糖尿病患者に「カロリー制限・脂質制限・運動」を行ってもらい、それにより動脈硬化が招く心臓病や脳卒中を防げるかを10年以上追跡した大規模研究があります(Look AHEAD試験といいます)[6]。その結果は意外なものでした。

体重は大きく減少し、血糖値も改善しましたが、心臓病や脳卒中の予防効果は確認されませんでした。

体重も血糖も改善しているのに、心血管疾患の予防効果は確認されない。これは従来の常識を大きく揺るがす結果でした。その後の追跡ではさらに深刻な事実が見えてきます。2026年発表のLookAHEAD研究のフォローアップの報告です[7]。

この研究では、カロリー制限・脂質制限・運動を組み合わせた介入を受けた70歳以上の対象者で、重い移動機能障害のオッズ(起こる割合と起こらない割合の比)が、対照群の1.5倍となりました。

「体重が減る=健康」ではない

ここでいう重い移動機能障害とは、移動に関する3つ以上の動作に「大きな困難がある」か「できない」と回答した状態です。

必ずしも寝たきりを意味するものではありません。この結果だけで、カロリー制限単独の影響と断定することもできません。つまり、カロリー制限でげっそりやせることは、からだの老化を進めていた可能性があるのです。なぜこんなことが起きるのでしょうか?

カロリー制限は体重を減らします。しかし同時に、筋肉・骨・基礎代謝(安静時にも生命を維持するために必要なエネルギー)まで削ってしまうのです。基礎代謝はからだの機能を保つために不可欠です。とくに高齢者では「やせる=弱る」に直結します。体重が減ることと健康になることは同じではありません。

そして太っている人であってもカロリー制限でやせることは、最善の方法とは言えないということです。短期的に体重が減っても、長期的に筋肉や骨を失い、老化や身体機能低下を進めてしまっては本末転倒です。では、かつて「カロリー制限で寿命が延びる」と信じられていた動物実験は、いったい何だったのか? そう思う人もいるでしょう。