「優秀な若者」ほど労働市場から消えていく

ここでひとつのパラドックスが生じる。

政府にとってNISAの普及は「貯蓄から投資へ」を促す政策としては成功である。しかし、資産形成に成功した若者、とくに優秀な、これから日本の各所でその能力を社会に還元してくれそうな若者たちが労働市場から想定よりも早く離れることが可能になってしまうという制度上のバグがあったからだ。

これは社会全体に働き手を確保し、納税者を確保し、社会保険料を集めたい政府の思惑とはコンフリクトを起こしている。資産所得を増やしてほしいのに、その成果を使って納税や保険料負担の大きな働き方から離脱されては困る。政策の成功が別の政策目標を脅かすのである。

先述のとおり、NISAの利用割合は全体として見ればまだまだ少ない。しかし優秀層の間ではNISA貧乏(≒FIRE志向)は若者の間で少しずつ拡大しているだろう。この決定的な矛盾が将来のNISA制度を巡る議論に影を落とす可能性がある。つまりなにが言いたいかというと、国はNISAが若い優秀層の「社会からの早期離脱チケット」として利活用されている状態に気づけば、その対策としてなんらかの方法で間接的な課税を行うのではないかということだ。

ビジネスマンの退職
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若者が逃げ出したくなる日本の現状

たとえば私が「ショックを受けた」という片山財務相の立場なら、「若者が生活を犠牲にしてまでNISAに資金を投じることは、制度本来の趣旨ではない。適切な金融経済教育が十分に行き渡るまで、非課税投資枠を見直す必要がある」とでも言って、制度の改変に着手するかもしれない。若者の将来を心配するという、いかにも聞こえのよい理屈である。あまり詳しく述べると藪蛇になるかもしれないので深くは書かないでおこう。

いずれにせよ、そもそもポテンシャルの高い優秀な若者たちほどNISAにますます熱視線を送るようになっているのは、かれらにとってこの国が信用に値しないからである。厳密にいえば、かれら世代の税や社会保障の負担に対してリターンがあまりにも乏しく、むしろこの国の税や社会保障制度に対してなんらかの「自衛策」を講じなければ潰されるという危機感すら持っているからだ。NISAはその「自衛策」として優秀だから、優秀層がこぞって使い始めているというだけのことだ。

政治が本来向き合うべきは「NISA貧乏」なる現象ではなく、若者たちをそこまでして「この社会から逃げ出したい」と思わせる社会の仕組みそのものである。若者を貧しくしているのはNISAではない。そうではなくて、若者たちがNISAに逃げ込まざるを得ないこの国のありようのほうなのだ。

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