「サイドFIRE」を狙う若者たち

もっとも、私の周囲にもNISAの枠を可能な限り埋めようとする若者はゼロではない。一定数いる。かれらは外食や旅行よりも積立額の増額を優先する。給与が増えれば生活水準を上げるより先に証券口座への入金額を増やす。パッと見た感じでは、たしかに生活に「うるおい」らしきものはないが、かれらはそれを不満に感じている様子はない。苦しそうにもしていない。往々にしてあるひとつの「明確な目標」に燃えているからである。

その目標とは何か。

サイドFIREである。

いまさら説明不要かもしれないが念のため述べておくと、FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略で、資産形成によって経済的自立を果たし定年前に仕事を辞めることを意味する。

サイドFIREはその派生形とでもいうべきスタイルで、資産運用による収入に加えて、必要最小限の労働収入を得ながら生活する方法論を指す。完全なリタイアに必要なほどの資産がなくても実現できるため、近年では結婚するつもりのない若い世代を中心に注目されている。自分ひとりならサイドFIREに必要な目標金額は低くて済む。

「運用益+必要最低限の仕事」で暮らす

かれらは若いうちに資産を数千万円規模まで積み上げ、運用益と必要最小限の仕事で暮らしていくことを目指している。会社勤めから完全に手を引かなくてもよい。フルタイム労働や昇進競争から距離を置き、自分の時間を自分で決められる状態を手に入れることが重要なのだ。かれらにとってNISAは「老後に備えるための制度」というより、「老後まで待たずに自由になるための道具」である。

私が「若いうちにしかできない経験にもお金を使ったほうがよいのではないか」と、やや老害じみたアドバイスを言っても、かれらは容易には納得しない。いま数万円を使って得られる楽しみより、将来、働くことを断れるだけの資産を持つことのほうがずっと価値があると考えているからだ。それは極度の節約というより「長く働き続ける人生そのもの」に対する静かな拒否表明なのかもしれない。

空港の窓の近くにスーツケース
写真=iStock.com/Choreograph (Konstantin Yuganov)
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