NISA制度で「気づいてしまったこと」
さてここからが本題である。ではなぜかれらはそこまでして、国の社会保障制度とは別に、自分の資産を築こうとするのか。「年金だけでは将来が不安だから」ではない。私に言わせてもらえば、むしろ逆だ。若者たちがそうまでして「サイドFIRE」を目指すのは、将来不安ではなく、社会不信があるからである。
ただし強調しておかなければならないのだが、ここにはなかなか皮肉な逆説がある。というのも、かれらは最初から国や社会を憎んでいたからNISAにのめり込んだわけではない。むしろ、国が用意してくれたNISAという制度を使い、資産運用について真面目に勉強するようになった結果として、いま自分たちが置かれている状況の理不尽さに気づいて、社会不信になってしまったのだ。
そもそも、私たちの多くは毎月の給与から天引きされる年金保険料について、深く考える機会を持たない。皆さんもきっと若い頃はそうだったのではないか。給料から勝手に引かれているし、払わないという選択肢もない。なんとなく「そういうものなのだ」と受け入れている。ところが現代の若者たちは違う。NISAを始めて、複利の仕組みや長期投資の期待収益について勉強し、自分の資産が少しずつ増えていく経験をすると、ある疑問がどうしても頭をよぎるようになる。
「待てよ。もしも毎月天引きされている年金保険料を、全部自分のNISA口座に積み立てることができたら、いったいどれだけの資産を築けるのだろうか?」
組織から出る「選択肢」を手にできる
これこそが、NISAという制度が若者たちにもたらした、ある意味で最大の「金融教育」の成果である。国としては若者にも資産運用に関心を持ってもらい、老後の生活に備えてほしかっただけなのだろう。しかし皮肉にも、金融リテラシーを身につけた若者たちは、国が用意した資産形成の制度と、同じ国が強制加入させている公的年金制度を比較するようになってしまったのである。そうして後者がいかに若者たちにとって不利であり、また日々の自分たちの暮らしを蝕んでいるのかを気づかせてしまった。今風の表現で言い換えるなら、NISAは公的年金の「メタ」になってしまったのだ。
サイドFIREの魅力もここで一段と鮮明になる。資産を築いて働く時間を減らせば、労働所得を得るために費やす時間を減らせるだけでなく、税や社会保険料の負担も(これらが給与所得から引き抜いていく形式をとっているがゆえに)大幅に変わる。現役時代に稼げば稼ぐほど負担が増える理不尽とも思える仕組みから一定の距離を置くことができるわけだ。
もちろん生活費を投資資産で賄うことには相場下落のリスクがあることは重々承知だ。だがかれらは組織への帰属や昇進より「退出する選択肢」を手に入れることを優先する。

