私は以前、食肉偽装問題の危機管理に携わったことがありますが、やはり相談に来た経営者から過小な報告をされました。

「どれだけ偽装したのですか?」
「30トンです」
「30トン? 大した量ではないですね。外国産の肉は全部でどれだけ仕入れていたのですか?」
「300トン仕入れています。それは消費者ではなくスーパーやレストランに売っているので、JAS法違反には当たりません」
「では請求書を見せてください」

そして請求書を見ると経営者からの報告は過少申告で、全量を偽装していたことが明らかになりました。

情報を耳だけで取ってはいけません。しっかり原本を見て、目で情報を取り、事態の全容をしっかり把握するのです。

全容を把握できたら、次に自分たちの犯した過ちや罪の重さを認識し、展開の予測をします。このステージが「解析」で、食材偽装を行った一連の会社はこれが非常に甘かった。その原因は、自分たちの犯した罪の重さに思いが至らなかったからです。

たとえば外国産の鶏肉を輸入し、国産と偽って販売する食材偽装があったとしましょう。このとき、もしその国の鶏肉がバクテリアやウイルスに汚染されているのがわかっても販売中止にすることができません。販売中止にすると「もしかすると偽装していたのか?」と追及されてしまうからです。

実際にそうした事態を引き起こしたのが、薬害エイズ事件の主役であるミドリ十字(当時)でした。HIV感染の可能性があるアメリカからの輸入血液で非加熱製剤をつくっていたにもかかわらず、日本国内の血液でつくっていると偽っていたため、ミドリ十字は非加熱製剤でエイズに感染するとわかった後も発売中止にできなかったのです。

薬品と同様、食品の偽装は非常に危険です。もし、ウイルスやバクテリアに汚染されている食品を抵抗力のない子供や老人、病人が食べたら死んでしまう可能性があります。

それくらい食材偽装は危ない行為ですが、偽装が発覚した企業ではその認識がなかった。つまり解析が非常に不十分であり、そのことが次ステージの解毒の甘さにもつながっています。

「解毒」とは誠実な情報開示や心に届く謝罪の言葉、厳しい処分や確実な再発防止策によって自らが発生させた毒を取り除くことです。最近は食材偽装に限らず、さまざまなところで解析が甘く、解毒に失敗した例が見られます。