たったひとりの応援団を探そう

私自身も閾値の経験をしている。私のライフワークは「現場力」の研究である。日本企業の競争力の源泉は現場にあるというのが私の見立てであり、現場力とは何か、どうすれば現場力を高めることができるのかが私の最大の関心事だ。

私は04年に『現場力を鍛える』(東洋経済新報社)を出版し、それ以来現場力という言葉は広まり、様々な企業が現場力強化に取り組んでいる。お蔭さまで、この本は出版して10年経過したにもかかわらず、いまだに増刷している。

しかし、私が「現場力」という概念を打ち出したのは、実はこの本が最初ではない。00年頃からいくつかの雑誌や他の私の書籍でも現場力について触れ、授業や講演でも取り上げている。

にもかかわらず、現場力に対する反応はほとんどなきに等しかった。自分の主張に反応がないというのは寂しいだけでなく、自信喪失、自己否定につながる。

現場力なんて誰も関心がないし、誰も面白いとは思ってくれない。だったら、そんなことを口にするのはやめよう。私の心は折れかかっていた。

そのときに、助け舟を出してくれたのが、出版社の編集者だった。

「現場力という考え方はとても面白いから、これで本を出しましょう」と声をかけてくれた。これが出版につながった。このときの編集者の声掛けがなければ、私は現場力という考え方を世に問うことを断念していただろう。

100人のうち99人が無関心だったり、否定的であっても、1人がポジティブな反応を示してくれれば、人間は前に進むことができる。小保方さんも「あきらめようと思ったときに、助けてくれる先生たちに出会ったことが幸運だった」と話している。閾値を越える「あと1回」の努力は、本人の執念もさることながら、「たったひとりの応援団」との出会いによってもたらされるのだ。

(写真=時事通信フォト)
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