「弱ったから売る」時代ではない
さらに重要なのは、売り手側の事情だ。M&Aと聞くと、経営が苦しくなった会社が単独で生き残れず、大手の傘下に入るというイメージが強い。
しかし、これから増えるのはむしろ逆だろう。元気なうちに「勝ち組」の陣営へ入る。文化堂やクックマートの動きは、その典型といえる。
地域に根を張り、顧客の支持を得ている。利益も出ている。それでも大きなグループに加わる。
なぜか。現在利益が出ていることと、10年後も単独で勝ち残れることは別だからだ。
人口は減る。人手不足は深刻になる。人件費も物流費も上昇する。店舗改装、物流センター、DX、AIなどへの投資額も増えていく。さらに経営者の高齢化や後継者問題もある。
ならば、会社が弱って企業価値が下がってから売るより、利益が出て、顧客や人材も残っているうちに有力企業と組んだ方がいい。これは極めて合理的な経営判断だ。
「弱った会社」より「元気な会社」
買い手側から見ても同じだ。経営不振のスーパーを買収すれば、不採算店を閉鎖し、店舗を改装し、人員を再配置しなければならない。買収後に多額の再建コストがかかる。一方、地域で支持され、利益を上げている企業なら、店舗だけではなく、顧客、人材、商品、仕入れ先、地域で築いた信用をそのまま取り込める。
つまり、売り手も元気なうちに売りたい。買い手も元気な会社を買いたい。ここで利害が一致する。食品スーパーのM&Aは「弱者救済」から、強い企業同士が将来を見据えて組む再編へ変わってきた。
会社の名前が残るのがうれしい
ブルーゾーンHD型の再編が興味深いのは、傘下企業の看板を必ずしも消さないことだ。文化堂は文化堂、クックマートはクックマートとして、それぞれ地域で築いたブランドや商品政策を生かす。いわば「連邦型」だ。
このモデルなら、中小・中堅スーパーのオーナーにとってM&Aへの心理的なハードルも下がる。「会社を売れば、自分が育てたスーパーがなくなる」のではない。「会社や店名を残しながら、大きな陣営へ参加する」という選択ができる。
非上場企業のオーナーにとっては、事業承継だけでなく資産承継という意味もある。株式交換などの手法なら、自社株を上場企業側の株式へ換えることも可能だ。会社や雇用を残しながら、創業家の資産承継も進める。大手グループへの参加は、そうした選択肢にもなり得る。
事業を残す。従業員の雇用を守る。取引先との関係を維持する。創業家の資産も次世代へ承継する。その解として大手グループへの参加を考える中小企業オーナーは、今後増えていくのではないか。

