人間的な環境を整えるアイテム
あんなオフィスでは、そのうち意図しない結果を招くことになると思いました。無駄を削ぎ落としたスペースでたとえばゴリラやライオンを飼育したら、悲惨なことになります。ストレスがたまって、争いを始め、その後無気力になって、早死にします。標準化されたスペースで働く人間は、それ以上に閉塞感を覚えるんじゃないでしょうか。人間は一人ひとり個性も趣味も意見も違います。自分独自のスペースにしたいと思ったとしても何もおかしくありません。
その後研究者となったナイトは、自身の仮説を試す機会を得た。同じく心理学者のアレックス・ハスラムと共同で行った研究は独創的だ。彼らは被験者を2つのグループに分け、標準的なオフィスで課題(書類のチェック、データの処理など)をこなしてもらった(※2)。
ただし1つ目のグループのオフィスは、無駄を削ぎ落とした環境に整えてある。一見すると効率的だ。誰の作業スペースも同じ見た目で、最低限のものだけを揃えてある。ちょうどナイトがウェスト・ミッドランズ州で見たオフィスとそっくりだった。
もう一方のグループもオフィスや備品は標準化されていたが、若干違うところがあった。壁には絵が掛けられ、デスクのそばには観葉植物が置かれていた。ナイトはこれを「豊かな環境」と呼んだ。
結果、生産性を比較してみると、後者のグループのほうが15%高かった。しかしこれは驚くほどの数字ではないかもしれない。それでも、たとえ標準化されたオフィスであろうと、より人間的な環境のほうが作業効率が上がるという結果が出た。
「やはり思っていた通りでした」とナイトは私に話してくれた。「人はたいてい豊かな環境を好みます。被験者も絵と植物のおかげで元気が出たと言っていました。無駄を削ぎ落としたスペースは、組み立てラインのような流れ作業には向いているかもしれませんが、認知力や創造力を要するタスクには不向きです」
好きなように選べる「個人的な環境」
実はナイトはこのあと3つ目のグループでも実験をしている。ここでは被験者自身に絵と植物を飾らせ、彼らの好みや個性に合ったスペースにした。「好きなように選んでください、と指示を出しました」とナイトは言う。彼はこれを「個人的な環境」と呼んだ。
さて、一見した限りでは、3つ目のグループの作業スペースの多くは、1つ目と2つ目のグループの作業スペースとほぼ変わらなかった。それも当然で、もともと無駄のない環境が好きな人もいれば、豊かな環境を好む人もいる。
しかしこの3つ目のグループの環境は、被験者自身の好みに合わせた個人的な環境だ。ちょうど座席やペダルを自分の体格に合わせて調節できるコックピットや、自分の血糖値の変化に合わせてメニューを組める食事のように。
結果は明白だった。3つ目の個人的な環境のグループが、もっとも生産性が高かったのだ。無駄を削ぎ落とした環境と比較すると約30%も高く、豊かな環境と比べても15%高かった。これは大きな違いだ。
「人は自分独自の環境を作る権限を与えられると、他人が用意するよりほぼ必ずいい環境を作ります」とナイトは言う。「被験者の1人はこう言っていました。『最高でした。本当に楽しかったです。すぐに引っ越してきたいくらいですよ』」
※2 Knight C, Haslam SA. The relative merits of lean, enriched, and empowered offices: an experimental examination of the impact of workspace management strategies on well-being and productivity. J Exp Psychol Appl. 2010 Jun;16(2):158-72.

