論点4:JAと農水省が価格操作したと言えるか

山下氏は「誰がコメ騒動を引き起こし、コメ価格を吊り上げてきたのか。犯人は、JA農協と農水省である」と断言しています(※2)。しかし、十分な根拠を示されていないのではないでしょうか。

JAが販売額確定前のコメ集荷時に農家へ仮払いする「概算金」とコメの相対取引価格が同時に上がっただけでは、JAや農水省が価格上昇を主導したとはいえません。むしろ、民間業者の高値提示や集荷競争を、JAが追随した可能性が高いでしょう。

事実、2024年春には卸や実需者の間で追加・代替調達が始まり、産地での集荷競争が本格化したのは同年8月末から。農水省の会合でも、卸が従来の集荷業者から必要量を確保できず、例年と異なるルートから高値で仕入れた状況が報告されています(※11)。2025年産に至っては、春先から集荷競争がスタート。JAおおいたは、前年に民間業者との価格差で集荷目標を下回った反省から、2025年産では早期に保証額を提示し、他業者に対抗できる水準を目指すと公表しました(※12)。つまりJAは、先行する民間の高値集荷に対抗する形で概算金を引き上げたと見るのが自然です。

また、いくらJAが在庫を保持して価格を操作しようとしても、大量の在庫を持つ民間業者がコメを放出してしまえば、高止まりさせることはできません。さらに、JAは農家で構成された協同組合ですから、コメ価格を乱高下させると結果的には自ら(農家)が大変な思いをすることになります。

いずれにしてもコメの集荷競争が激化して仕入れ価格が上がれば、小売価格も上がります。月次の全国平均では、仕入れ段階の目安となる相対取引価格が、2024年4月の玄米60kg当たり1万5526円から、2025年4月には2万7102円へ約75%上昇しました。同じ期間の小売価格は、5kg当たり2083円から4225円へ約103%上昇しています。

※11 第217回国会 農林水産委員会 第4号(令和7年3月19日(水曜日))
※12 JAおおいた「令和7年産米概算金保証額決定!」

論点5:供給過剰でも、価格がすぐには下がらない理由

山下氏は「経済学の常識では、いかに高く仕入れた商品であっても、これだけの供給過剰になれば、保管コストや資金繰りに窮した業者が赤字覚悟で在庫処分(損切り)に走るため、販売価格は下落するはずである」「競争が機能する市場であれば、需給が緩和していくことが予想される中で、集荷段階での一時的な高値仕入れだけで、販売価格の高止まりが長期化するとは考えにくい。それが市場全体で持続するには、通常の市場で作用する以外の要因(市場への歪み)が働くからである」と述べています(※2)。

しかし、以下のような農産物としてのコメの性質、現場の特殊な事情を考えると、直ちに損切りされるとはいえないでしょう。

① 作柄は稲の刈り取りまでわからない

米は年1回しか収穫できません。6月末時点での在庫が多くても、猛暑・台風等で翌年分が足りなければ高値になります。2023年の高温障害、2024年の需要拡大による不足は、業者の記憶に残りました。8月末の作況発表、9月の出回りを確認するまではリスクが高いので、損切りの決断は後ろ倒しになるでしょう。

② 相対取引価格は「余った米の売値」ではない

農水省の相対取引価格は、実際に成立した取引価格ですが、店頭価格や、その時点の未契約米がいくらで売れるかという「足元の実勢」を示すものではありません。すでに結ばれた契約を含む価格の加重平均だからです。したがって、在庫過剰になっても、相対取引価格や店頭価格に下落が表れるまでにはタイムラグが生じます。

③ JAが安売りすると農家にも影響がある

JAが在庫を安値で処分すれば、その分だけ農家の追加精算金が減ります。販売結果によっては、追加精算金がなくなったり、マイナスの場合は概算金との差額の返還や翌年分との調整が必要になったりすることも。したがって、JAは農家の経営、農家との関係にも影響するため、民間業者以上に損切りをしづらいでしょう。

④ 民間業者も集荷競争で高く買った

特に令和7年産は、民間業者もコメをより高く、大量に仕入れました。①のような現場の事情(タイムラグ)があるので、そのままの価格で売れるかもしれないうちは損切りしづらくなります。

⑤ 小売は高く仕入れた在庫があるうちは値下げしない

店頭価格は、その日に安く仕入れられるコメの値段だけで決まるわけではありません。小売店が4000円台で仕入れた5kgの在庫を抱えている間は、それを大きく値下げすれば仕入れ値を割って損失が出るため、その在庫がはけるまで売価を高めに据え置きます。そのため、相場が下がり始めても店頭価格(POSに表れる実売価格)はすぐには下がらず、在庫が入れ替わるにつれて徐々に低下していくのです。

以上を踏まえれば、JAや民間業者が在庫を持ち続けたのは、作柄が確定するまでは手放すリスクが高く、慌てて損切りする状況ではなかったからでしょう(①④)。とりわけJAは、安売りをすると農家の精算金の減少に直結するため、民間業者以上に損切りしづらい立場にあります(③)。さらに、いずれにしても相対価格や店頭価格に下落が表れるまでにタイムラグがあるのです(②⑤)。つまり、「価格を高く維持する意図」ではなく、コメの生産と流通に内在する事情によるものといえます。

【図表5】豊作かどうかは収穫してみるまでわからない
筆者作成
コメの収穫は年1回であり、しかも収穫してみるまで品質や収量がはっきりわかりません。また食品ですから、収穫後に売買相手を探していたのでは遅く、事前に取引をするため、必ずしも収量が価格に反映されないことがあります