論点2:米価高騰が心理だけのせいとは言っていない

山下氏は「(コメが)不足するかもしれないという心理だけで米価が大きく跳ね上がったことは経験したことがない」と書かれています(※2)。私が記事のまとめの一部に「主食だと『不足するかもしれない』という心理だけで価格が大きく跳ね上がります」と書いたのは事実ですが、その他の要素についても書いています。

2024年度当初、2023年度産が不作だったので在庫が少ないまま新年度を迎え、コロナ明けの外食需要の回復、インバウンドの増加も重なり、コメが足りなくなるかもしれないという見通しが広がり始めました。これを起点に民間の卸や実需者が追加調達を始め、その価格がさらに次の取引価格を押し上げるという連鎖が生じたことを指摘しました(※5)。また南海トラフ地震の情報が出た後の8月には家庭購入量が前年の同月比で約3割増になり(※6)、さらに新米の買い急ぎも発生したのです(※7)。

2025年度は、春頃から集荷競争が始まりました。収穫前の8月には記録的な猛暑と少雨により深刻な水不足が発生し、一部の生産地では田んぼが干上がり、農家や自治体が給水車等を使う緊急事態になったのです。結果的には豊作傾向でしたが、農業関係者や流通業者が「不作に対する不安」を持ち、高値でも在庫確保に走らざるを得なくなり、当時は米価も高止まりしました。そういった市場全体の不安感、政府の実態把握と対応の遅れなどが合わさって米価高騰へ繋がったと、私はお伝えしています。

山下氏は消費者心理の面を強調して論じましたが、私は上記の通り、複合的な影響について述べました。多くの読者に誤解されてしまったことを、大変残念に思っています。

※5 農林水産省「令和6年第2回米産業活性化のための意見交換 議事録」
※6 農林水産省「令和6年端境期の需給状況に関する分析」
※7 農林水産省「令和6年第3回 米産業活性化のための意見交換 議事録」

【図表3】コメの価格が高騰した理由
筆者作成

論点3:JAが在庫を操作したのは事実なのか

山下氏は「JA農協は増やした在庫を政府が備蓄米として買い入れることで肩代わりしてくれると予想して在庫を増やすことができた」(※2)と書かれていますが、これは事実といえるでしょうか。

確かに、農水省「米穀流通統計」によると、2026年6月末の民間在庫243万トン、うち出荷・販売段階194万トンという積み上がりは確認できます(※8、9)。しかし、この統計は、JAと民間業者の合算であり、契約済み在庫や物流遅延も区別しないため、JAの意図的な売り控えは立証できません。JAの売り控えを証明するには、事業主体別の月次入出庫、契約・販売日、販売指示のデータが必要です。

そもそも、食糧管理制度下の1960年代には約9割という高い集荷率を誇っていたJAですが、図表4(2024年産の生産量全体に対する集荷量)の通り、現在は例年4割程度の集荷率です。さらに2025年産主食用米におけるJAグループのうち、JA全農の集荷数量は208万トンで、生産全体に対する集荷率は28%に留まり、目標としていた30%にさえ届きませんでした(※10)。

ところで、なぜ山下氏はJAではない民間業者が在庫を増やしていたことは問題視しないのでしょうか。JAを強く非難する一方で、民間業者への言及が非常に少ないことには疑問を感じます。

9月1日、農水省は昨年放出した備蓄米のうち21万トンを買い戻すと発表しました。JAが買い戻し要請を行ったことも事実です。ただし、これらの事情だけでは、買い戻しへの期待が在庫につながったとはいえません。買い戻しの数量や時期が未定だったこと、JAの要請が2025年産米の集荷後だったことを踏まえたうえで、買い戻しを前提とした具体的な採算計算が行われていたのかどうかなどを確認する必要があります。

※8 農林水産省「令和8年5月の米穀流通の動向(集荷、販売、民間在庫)」
※9 農林水産省「令和8年6月の米穀流通の動向(集荷、販売、民間在庫)」
※10 産経ニュース「JA、コメ集荷目標未達 25年産、卸売業者らとの集荷競争生じ『流通構造が変化』」

【図表4】お米の流通ルートとシェアの目安
シェアと価格形成力について論じる場合、需給バランスが大きく影響するため、需給を代替する縁故米・自家消費も分母に含めています(出典=農林水産省「米をめぐる状況について」を基に筆者作成)