供給量は世界人口と同じ割合で増加している

金は実用的ではない。それに、利回りを生むこともない。何もせず、ただそこにあるだけだ。何かの建築にも、切断にも、配管にも金以外の金属が使われる。産業分野での金の利用はごくわずかだ。

金の用途は富を貯蔵し、誇示することに尽きる。金は有用の富であり、純粋な通貨である。意識してはいないかもしれないが、われわれは今日も金を通貨として使用している。価値の交換ではなく、価値の貯蔵を媒介するものとして。

1850年、世界中の金の約27%が金貨の形をとり、中央銀行もしくは政府準備銀行で保管されていた。金本位制はとっくの昔に廃止されているが、今日もこの割合はほぼ変わっていない。

人類が生産性を向上してきたこの1000年、金の購買力は増加し続けている。1972年、原油1バレルの価値は金0.06オンスに等しかった。2024年の時点で、原油1バレルの価値は金0.02オンスに等しい――50年前にくらべてずいぶん下がっている。

住宅価格にしても、金を単位にして計ればあまり変わっていない。だが、フィアット通貨(*ドル、ユーロ、円といった、有形の資産ではなく、法律のみで価値を裏づけられた通貨)を単位にした場合には絶え間なく(破壊的に)高騰している。

金供給量は、自然法に則しているかのように、世界人口と同じ割合で増加している。年増加率は約3%である。この相関関係は何百年も続いている。ただし、19世紀末のゴールドラッシュの期間は別である。その50年間に、金供給量は大幅に増えた。

金色で光沢のある古代ローマのコイン
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金本位制からの離脱

金が公認の通貨になって約1000年たった20世紀初め、世界を揺るがす大きな変化があった。イギリス、ドイツ、フランスの政府は第一次世界大戦の費用に十分な金を保有していなかった。そこで、金での裏づけを断念し、通貨を必要なだけ発行するようになった。

二度の世界大戦の合間に、各国はしばらく金本位制に立ち戻ってみたが、うまく行かなかった。ふたつの貨幣理論がぶつかった。金で価値を裏づけられた貨幣と、政府から〔信用を与えられて〕発行される貨幣である。

「われわれが金を保有するのは政府を信頼できないからである」と、1933年にアメリカのハーバート・フーヴァー大統領はいった。一方、経済学者のジョン・メイナード・ケインズを始めとする多くの人びとはフィアット通貨の制度を支持し、政府にとってはそのほうが経済の支配と通貨流通量の操作がやりやすいと主張した。

いうまでもなく、ケインズ理論とフィアット通貨は主流になった。1930年代末までに、ヨーロッパのほとんどの国が金本位制から離脱していた。アメリカもそのあとに続いたが、1971年までは完全な廃止に至らなかった。社会福祉とヴェトナム戦争の費用がかさみ、それを賄う必要があったからである。