金の備蓄量を着実に増やしている

もっとある。国内の埋蔵量が減っているため、中国の金生産企業は海外、とくにアフリカ、南アフリカ、アジアの金鉱山を買収してきた。推定では、中国企業の海外での年間生産量は50トンから100トンで、徐々に増えている。中国は世界一の金産出国であると同時に世界一の金輸入国でもある。

これらをつなぎあわせれば――累積の産出量、輸入量、既存の保有量を勘案すれば――約3万8000トンという結論になる。世界トップクラスのアナリストのなかにも、この数字に同意する人びとは少なくない。

われわれが正確なデータを知ることはけっしてできないのかもしれない。だが、すでにわかっている事実がある。莫大な量の金を生産し、輸入してきた中国は、この3年で備蓄量を着実に増やしているのである。

金を大量に貯蔵する中国の目的は何だろう? 可能性のひとつは分散投資である。資産配分に金を加えることは理にかなっている。どの国の中央銀行にとっても金は、誰の負債にもならない唯一の通貨として、保有資産の中核にするべきものである。

いつでも金本位制を採用できるポジションを狙う

しかし、そのほかにも可能性はある。中国は自国通貨にかかわる野心のために貯蔵している。つまり、中国元を国際準備通貨にしようと考えているのである。

※国際通貨基金が人民元にSDRを加えたことで、国際準備通貨になったと見る向きもある

ドミニク・フリスビー著、中島由華訳『ゴールド 金の世界史』(河出書房新社)
ドミニク・フリスビー著、中島由華訳『ゴールド 金の世界史』(河出書房新社)

これまでに国際準備通貨になったのは、金、金および銀、あるいは銀による裏づけのもとに発行が開始された通貨のみである。おそらく中国が目指しているのは、現代版の金本位制をとることであるとはかぎらないが、たんに望めばいつでも金本位制を採用できるポジションを得ることなのではないだろうか。

中国は、貨幣の武器化を決断した場合には、実際の金保有量を公表しさえすればいい。また、その金で中国元の一部を裏づけてもいいかもしれない。そうなれば、裏づけのない欧米諸国の通貨は購買力を大きく下げると考えられる。

欧米諸国のフィアット通貨をふたたび金で裏づけようとすれば、たとえそれが全体の一部であっても、金の価値が見直され、その価格が劇的に跳ねあがる。それこそが、20年間絶えず金を蓄積しつづけてきた中国の切り札なのだ。