イントロダクション
人生の中盤を迎えた40~50代の人たちが、将来の不安や焦燥感、心の不調に苛まれる状態は「中年危機」と呼ばれ、その仕組みや対処法が広く知られている。
ただ、「中年期をどう生きるか」は誰もが直面する問いでありながら、これまで個人的問題とされ、時代や社会との交点上で考えることは少なかったのではないか。
本書では、自身も40代になった臨床心理士が、現代の中年期(ミドル・エイジ)の生き方について、これまでの心理学の研究を整理しながら考察している。
その上で、既存の「ミドル・エイジの物語」が安定した社会を前提としていること、不安定な社会を生きる現代のミドル・エイジには、もう一つの新しい物語が必要であることを、各界の4人へのインタビューを通じて論じている。
著者は臨床心理士・公認心理師。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学。2026年『カウンセリングとは何か 変化するということ』で新書大賞2026受賞。なお、インタビューゲストの尾崎世界観氏はミュージシャン・作家、角田光代氏は小説家、鷲田清一氏は哲学者、千正康裕氏は元厚生労働省の官僚。
まえがき――ミドル・エイジ・ビギンズ
総論 ミドル・エイジの心理学――四つの物語
インタビュー 第一回 尾崎世界観「閉店セールは続く」
インタビュー 第二回 角田光代「竜宮城の働き方改革」
インタビュー 第三回 鷲田清一「ボールを預かり、走り抜ける」
インタビュー 第四回 千正康裕「組織が変わってしまった」
考察 魂の浅瀬
あとがき――ミドル・エイジは「ふふふ」と笑う
ミドル・エイジは深い森のようなもの
ミドル・エイジとは深い森のようなものです。中年とは、ひどく見通しが悪くて、一度彷徨いこむと自分がどこにいて、どこに向かっているのかわからなくなる時期だということです。中年期の心理学の代表的研究者であるダニエル・レビンソンは、その理由を次のように書いています。
「成人の人生の具体的な性格は、今日の社会で、そして恐らく人間の歴史全体にわたって、もっともよく守られている秘密のひとつである。一般に中年の人は中年の生活の経過や意味を同輩の者、自分より若い同僚、若い後継者たちと語り合うのはむりだと知る。中年というのは触れてはならない話題のひとつとされてきた(『ライフサイクルの心理学(上)』講談社学術文庫)」

