「本番」ではいつ復旧するかわからない

当然のことながら、演習では30分後に通信速度が戻ることを参加者は知っている。だが実際の有事では復旧時期はわからず、さらに空襲や停電、交通機関の運休などが同時に発生する可能性もある。そうした事態を見越した訓練でなければ意味がない。

各自治体では、演習前から住民に準備を呼びかけた。重要な情報をオフラインで確認できるか、外部との連絡手段を確保できているか確認するよう促し、演習中は不要不急のデータ通信を控えること、どうしても必要な業務がある場合は固定回線を利用するよう周知した。

さらに警政服務APP(現在地周辺の防空避難施設の位置や収容人数などを確認できる行政アプリ)をあらかじめダウンロードして避難情報や地図をスマートフォンに保存することや、この時間帯前後に台湾高速鉄道の電子チケット「T-EXモバイルチケット」を利用する人は画面保存や紙で準備することなどもアナウンスされている。

エリア全体の通信速度が低下すれば、行政機関も影響を受ける。台北市労働局は、4G・5G回線では市のウェブサイトやアプリ、モバイル決済などへの接続が遅くなる可能性を事前に周知。一部自治体では事業者にも通信低速化を想定した準備を求めた。

海底ケーブル切断というリスクの顕在化

日本の「防衛白書」令和7年版によると、2023年2月、台湾本島と中国大陸沿岸に近い馬祖列島(連江県)を結ぶ2本の海底ケーブルが相次いで切断された。台湾当局は中国籍漁船や貨物船による損傷とみている。

この結果、通信は容量の限られたマイクロ波回線へ切り替えられ、馬祖では50日以上にわたってインターネットが大幅に使いにくい状態が続いた。連江県政府では回線混雑により、庁舎の階ごとにインターネットを利用する時間を分け、電子公文などを処理する対応を迫られた。

住民への影響も当然大きく、メッセージアプリのテキストは送れても画像は読み込めなかったり、まともに電話ができなかったりという状況が発生。なかには一時的に台湾本島に避難する人もいたという。海底ケーブルが失われれば何が起きるかが顕になった。

2025年1月にも台湾北部で国際通信用の海底ケーブルが損傷し、台湾当局は中国と関係する貨物船が意図的に損傷させた可能性も含めて捜査を行った。このように、平時でも中国船と思われる船舶が海底ケーブルを損傷しているのだ。有事においては意図的な損傷が行われるだろう。台湾が今回こうした演習を行ったのは当然の備えといえる。