台湾が警戒する海からの封鎖

漢光42号で想定されたのは、中国軍が大規模な軍事演習を利用して戦力を集結させ、そこから実際の軍事作戦へ移る状況だ。軍事的威圧と侵攻との境界が曖昧なまま、事態が急速に進む可能性を台湾側は警戒している。

そうした事態に備えて行われたのが、海上封鎖訓練だ。台湾海軍と海巡署(海上保安庁に相当)は、エネルギー資源や重要物資を運ぶ民間船舶を護衛し、海外との海上交通を維持する「反封鎖」任務の訓練を実施。海軍と海巡署が合同で実動演習を行うのは初めてのこととなる。

台湾はエネルギーや物資の多くを海上輸送に依存している。中国軍が台湾周辺の海空域への圧力を強め、民間船舶の航行を難しくすれば、上陸作戦に至る前からエネルギーや食料、原材料などの供給に影響が及ぶ。

また、演習開始から数日後の8日には南部・高雄の左営海軍基地一帯で、ミサイル艇、攻撃用無人機、海巡署の船艇、近接航空支援部隊を投入した合同反上陸訓練が行われた。

さらに10日早朝には台湾海峡の澎湖諸島で、M60A3戦車や対空火器を使った多層防御(敵の侵攻に対し複数の防衛線を重ね、段階的に敵を殲滅していく戦法)を訓練。同日夜から11日未明には台北市の松山空港周辺で、空挺部隊や特殊工作員の侵入を想定し、憲兵予備役旅団が道路を封鎖して重要拠点を防護した。

これらを一連の流れとしてとらえると、中国軍が軍事演習を利用して戦力を集結させ、海上交通を圧迫し、重要拠点への攻撃を経て空挺・上陸作戦へ移るという台湾側の想定が見えてくる。

中国・台湾
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「スマホが繋がりにくい」さてどうする?

さらに興味深いのが、漢光42号と並行して実施された「城鎮韌性じょうちんじんせい演習」だ。

こちらは2024年から年次実施されるようになった、官民合同の防衛・防災訓練である。地方自治体が中心となって行政機関や民間セクター、市民も参加する。今年の城鎮韌性でも、前年と同じく空襲時の避難、負傷者の救護、物資の確保などを訓練した。

加えて今年はこれまでにない取り組みが行われ、台湾内外で注目を集めた。モバイル通信速度を低速化させ、通信障害が起こった場合を想定した動きを確認したのだ。

台中市など中部7県市では10日に、台北市を含む北部7県市では13日に、それぞれ地域全体のモバイルデータ通信が30分間にわたって低速化された。13日の北部訓練では256kbpsまで制限。首都・台北の市民たちは、防空警報が鳴る中で建物内や地下へ避難を開始すると同時に、スマホが普段のようには使えない状況に置かれた。

今回作り出された通信環境は、通常の4G・5G通信速度の約1%に相当する水準だという。この速度では、文字を中心とした情報は利用できても、動画視聴やビデオ通話、大容量データの送受信には大きな制約が生じる。

つまり台湾が再現したのは、通信が完全に途絶する状況ではなく、「つながってはいるが、十分には使えない」環境だ。これはサイバー攻撃や海底ケーブル切断などによる通信施設の損傷、停電などで通信容量が低下した状況を念頭に置いた訓練といえる。