「中」の人たちが取り残されている

ただし、賃上げ率の見方には注意が必要である。パートタイム労働者の賃金水準はもともと低いため、賃上げ額が小さくても、賃上げ率は高くあらわれやすい。例えば、時給1000円の労働者が33円の賃上げを受ければ、賃上げ率は3.3%となる。

これを月収に換算すると(一日8時間、月20日間勤務)、増加額は約5300円になる。一方、月給30万円の労働者が1万円の賃上げを受けた場合、賃上げ率は約3.3%である。率でみれば両者は同程度であるが、実際の賃金増加額は後者のほうが大きい。

つまり賃上げ率は、賃金水準の低い層ほど高く示されやすい。労働者全体に占めるパートタイム労働者の比率はすでに3割を超えており、平均値はこうした構成によって左右されやすい。したがって、平均的な賃上げ率の高さが、そのまま一般労働者の賃金改善を意味するとは限らない。

これらのデータに基づくと、近年の賃上げは、「上」と「下」は上昇しているが、「中」が取り残される形で進んでいる可能性がある。

日没時にオフィスで働く実業家
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春闘による賃上げは、主として大企業の正社員に及び、最低賃金の引き上げはパートタイム労働者を中心とする低賃金層の賃金水準を押し上げてきた。だが、そのあいだに位置する中小企業の正社員や、派遣労働者や契約社員といった中位賃金層で、賃上げが限定的である。

したがって、賃上げが進んでいるとされながらも、典型的な労働者の賃金が十分に上昇しているとは言い切れないのが現状だろう。

賃金が上がっても生活が苦しいワケ

以上で見てきたように、賃金といっても、その見え方は一様ではない。

企業規模、雇用形態、年齢によって異なるだけでなく、「賃金が上がった」と言っても、それがボーナス(賞与)や手当の増加によるものか、基本給の引き上げによるものかによって、長期的な意味合いは異なる。

ボーナスであれば一時的な増加にとどまる可能性があるが、基本給であれば、その後の賃金水準にも持続的な影響を及ぼすことが期待できる。

また、時給で働く人のなかには、時給が上がると、その分シフトを減らすよう求められたり、自身で年収を調整したりする人もいる。そのため、時間当たりの賃金が上昇しても、年収や月収は変わらず、生活の苦しさが必ずしも改善しない場合もある。

そこで次に、実質賃金の動向を多面的に捉えるため、2つの単位から確認する。1つは、厚生労働省「毎月勤労統計調査」における「きまって支給する給与」をもとに算出した「月当たりの実質賃金」である。

この指標は、賞与を含まない月例賃金であるため、家計が実際に受け取る毎月の賃金額に近い。