ロイターが写真に捉えた「メモ」の中身
日本の財務省は8月3日の声明の末尾で、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が海外の通貨当局向けに設けた、米国債を担保にドル資金を調達できるFIMAレポ・ファシリティの活用方針を記している。
米国債とドル、その双方の価値を守るにはどうすべきか。アメリカとしては、ユーロの売却を通じて日本の円買いに加わる以外に、十分に強力な手札はなかった。
苦しい立場にあるのは、日本も同じだった。アメリカを円買いに引き入れるまでに、日本は単独で打てる手をほとんど使い切っていた。
4月28日から5月27日にかけて日本が円買いに投じた額は、財務省の公表で11兆7349億円。アルジャジーラが報じるように、6月には日銀が政策金利を31年ぶりの高水準となる1%に引き上げた。それでも円安は止まらなかった。
手詰まりのなかで踏み切ったのが、7月30日の円買い介入だった。フィナンシャル・タイムズは、公式データと証券会社の推計に基づくアナリストの見立てとして、約8兆4500億円との数字を伝えている。米ビジネス誌のフォーチュンも、日銀当座預金と短資会社の予測を比較したブルームバーグの集計として、同じ額を挙げており、1日あたりの介入としては過去最大となる可能性が高い。
これにアメリカが同調した。ベッセント氏がキャンプデービッドでの閣議に持ち込み、ロイター通信のカメラが捉えたメモには、「To Do」の見出しの下に、円買い50億〜100億ドル(約7950億〜1兆5900億円)という書き込みがあった。規模では日本の投入額に遠く及ばないが、アメリカが自国の財布で円を買った事実は、投機筋にとって大きな意味を持つ。
フォーチュンによると、2日前の29日まで1986年以来の安値圏にあった円は、31日のニューヨーク市場で1ドル157円40銭と、終値としては5月初め以来の高値をつけた。
介入の手がかりを消した三村財務官
異例の協調は、一朝一夕に実現したわけではない。日本側は効果の乏しい単独介入を続ける一方、次の一手の布石をすでに打っていた。
ロイター通信は、三村氏が戦術を転換したと分析する。連日の口先介入をやめ、公の場に出る回数を減らすことで、介入の可能性について読みづらくしたという見立てだ。
警告を繰り返せば、市場はそのうち当局の出方を読む。だが、何も語らなければ読みようがない。三村氏が口をつぐんだことで、介入のタイミングを見極める手がかりが消えた。リスクを避けたい投機筋としては、積極的な円売りを仕掛けにくい状況が生まれた。
就任以来、水面下でベッセント氏との協議を重ねてきた片山さつき財務相もまた、介入の有無については語らなかった。
2026年5月、ウズベキスタンのサマルカンドで、単独介入はあったのかと問われた片山氏は、「現段階ではコメントできる立場にない」と明言を避けている。ブルームバーグが伝えた。
市場に対して口を閉ざした片山氏は、アメリカ政府の取り込みに動いていた。ロイター通信によれば、8月3日に日米の協調介入を発表した際、片山氏はベッセント氏との協議がオンラインを含め約10回に上ったと説明し、5月の来日時には夕食を挟んで3時間半議論したと明かした。
アメリカ側が動き始めたのは、さらに前だ。今年1月、ニューヨーク連銀が異例のレートチェックに乗り出している。当局が銀行に相場の水準を照会する行為で、介入の準備段階と受け止められる。円相場をめぐる照会は本来、日本の当局が担うが、それをアメリカが自ら行った。
日米はこうして、7月31日の協調介入のはるか前から、地ならしを進めていた。

