「こんなことは前例がない」と憤る関係者

欧州の反発は強かった。

欧州当局者の協議を知る関係者は、フィナンシャル・タイムズに、「非常に驚くべき」で「悲しい」ことだと語り、「こんなことは前例がない」と述べた。この関係者は、西側の中央銀行が数十年かけて築き、金融の安定と経済成長を育んできた協力関係が揺らぎかねないとも語った。

これに対し、アメリカ財務省の報道官は、介入に使った為替安定化基金の準備資産の配分を他国の当局と調整することはない、と答えた。トランプ政権高官はさらに、「我々はECBとは違い、各国当局との非公開の議論の秘密は尊重する」と述べ、欧州側を暗に牽制した。

為替安定化基金とは、アメリカ財務省がドルや外貨などの準備資産を保有し、為替の安定のために自らの判断で動かせる資金である。つまり報道官の言い分は、基金がどの通貨をどれだけ持つかは財務省が決めることであり、今回はその中でユーロを円に入れ替えたにすぎない。だから他国と相談する筋合いはない、というものだ。

ベッセント氏も後に、ユーロ売却は準備資産の再配分にすぎないと欧州側に説明したと米ビジネスニュース専門局のCNBCで述べている。一部のECB高官が「長年の慣行に対する前例のない違反」と受け止めた行為を、アメリカは「自分の財布の中身の組み替え」だと弁明した。

2026年5月28日、ホワイトハウスでの記者会見に臨むスコット・ベッセント財務長官
2026年5月28日、ホワイトハウスでの記者会見に臨むスコット・ベッセント財務長官(写真=The White House/PD-USGov-POTUS/Wikimedia Commons

ドル売りは「強いドル」政策と矛盾する

アメリカはなぜ、自国通貨のドルではなくユーロを売ったのか。フィナンシャル・タイムズは、答えはベッセント氏が掲げる「強いドル」政策にあると分析する。

円を買う原資をドル売りで賄えば、市場にドルがあふれ、ドル安につながる。自ら通貨安を招いたと受け止められれば、ベッセント氏が掲げる「強いドル」の政策と矛盾しかねない。他国の通貨なら、政策との矛盾は生じず、痛みは代わりに欧州が負う。

アメリカとしては、こうした賭けに出てまで円安を止めたい動機があった。まずは対外的な理由づけとして、ベッセント氏はCNBCの番組で、円の安定はアジア全域にとって重要だと語った。円が急激に下落すれば、他国も自国通貨の切り下げを迫られかねないという論法だ。ベッセント氏は韓国ウォンの変動や、中国人民元が過小評価されているとの懸念を挙げた。

アジア経済の守護者かのように振る舞うベッセント氏だが、一方、フィナンシャル・タイムズによれば、エコノミストやアナリストの間では、さらに踏み込んだ見方も出ている。

それによると、日本が単独で介入を続ければ、保有する米国債の一部を売却して資金を賄うほかなくなりかねない。売られれば価格は下がり、金利は上がる。アメリカの長期金利が19年ぶりの高水準に迫るなか、日本の売却が重なれば、アメリカ自身の調達コストに跳ね返るという見方だ。