イスラエルに広がる「不平等」への怒り

イスラエルでは男女問わず国民に厳格な兵役が義務付けられているが、建国以来、ユダヤ教の聖典研究に専念する超正統派の神学生たちには特例として兵役免除が認められてきた。しかし、終わりなき戦闘の長期化に伴う深刻な兵力不足と、犠牲の偏りが生む不公平感から、国民の間で兵役免除に対する怒りと反発の声は年々高まりを見せている。

建国当時の兵役免除者は研究者約400人に限定した特例措置でしかなかった。しかし、兵役免除の対象者は今では数万人単位となり、国民の間でも血の不平等だと、不満が高まっている。

さらに、超正統派は正規の労働市場に出ず、一般市民が納めた税金が彼らへの生活補助金や宗教学校への助成金に回され、「経済的二重の不平等」に対しても批判の声が絶えない。ネタニヤフ首相と連立を組む超正統派政党はたびたび兵役免除の継続を訴えてきた。

ネタニヤフ首相にとって超正統派政党は議席の過半数を維持するために不可欠な連立パートナーだ。一方で、一般兵士の負担増大に苦しむ軍や世論、他党からの反発も大きく、超正統派に全面譲歩した兵役免除法を通すことは極めて困難と言える。超正統派コミュニティでは大規模な抗議デモが激化し、ネタニヤフ政権の基盤を揺るがす国内政治危機となっている。

過半数に届かない与野党の綱引き

10月末に行われる次期国会選挙には、さらなる懸念もつきまとう。

イスラエルの国会は一院制の120議席だ。7月14日の報道では、イスラエルのテレビ放送局「チャンネル12」が世論調査を行ったところ、ネタニヤフ支持派は51議席を獲得する見込みだ。しかし、ネタニヤフ反対派は59議席を獲得する見込みで、ネタニヤフ陣営を突き放しているが、与党となる過半数には届いていない。

一方で、イスラエルの連立政権にほとんど参加していないアラブ系政党は、残りの10議席を獲得する見込みであるが、対パレスチナの強硬姿勢を続ける中、アラブ系政党と与する可能性は、現時点で極めて低い。仮にこの状況で選挙結果を迎え、与党となる過半数を得るためには、互いに相手陣営からの票の切り崩しは欠かせない。

さらに、「誰が首相にふさわしいか」という世論調査では、ガディ・アイゼンコット前イスラエル国防軍(IDF)参謀総長がネタニヤフ首相を43%対34%で上回っている。ネタニヤフ首相は、長年の政権運営による安定感はあるものの、先の汚職裁判をめぐっての司法制度改革に対する反対や長期政権への国民の疲れも見てとれる。

ガディ・エイゼンコット氏
ガディ・アイゼンコット氏(写真=Mark Neyman/GPO/イスラエル大統領報道官室/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

一方、アイゼンコット氏は元参謀総長で、安全保障問題に強く、ガザ戦争やイランとの緊張が続く中、「軍事経験のある指導者」として、国民の支持を集めている。

また、2023年以降のガザ戦争で息子を亡くしており、その経験から「政治家というより国家に奉仕してきた人物」として国民の共感を得ている。親族に殉教者がいることは、イスラエル国家のリーダーとして受け入れられる大きな要因と言える。ネタニヤフ首相も、1976年、実兄をハイジャックの人質救出作戦で失っている。