戦前日本のモラルを体現したような人物

今日の人に、乃木さんの存在の大きさ、不思議さは理解しがたいかもしれません。旅順陥落の英雄であり、戦後は学習院院長として、昭和天皇をはじめ皇族の教育係にもなった。明治天皇の死に殉じ、妻とともに自決し、日本のみならず、世界の人々に感銘を与えた。明治の日本人の、大きな象徴的な存在でした。

乃木希助将軍とその妻、静子夫人
乃木希助将軍とその妻、静子夫人が、自殺当日、青山の自宅でくつろいでいる様子(写真家不明/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

司馬さんも私もそうでしたが、戦前の教育を受けた子供にとっても、乃木さんの存在は大きい。戦前の日本のモラルを体現したような人物でした。

しかし、その乃木さんは、およそ軍事的には無能な軍人でした。その彼が第三軍の司令官に選ばれた。必然的に日本の命運を握ることになってしまう。そこにある陸軍の体質をも、司馬さんは書きたかったのではないか。