対中戦略は「長期戦」の構えにシフト
トランプ政権が対中強硬姿勢を和らげている理由は、対中戦略を「短期決戦」から「長期戦」の構えへとシフトさせてきたことにある。
トランプ政権の政策の根底には、行き過ぎたグローバリズムの巻き戻しがある。グローバル化の結果として中国の製造力・供給力が過度に強まり、米国の製造業が衰退したという強い危機感だ。そのため、政権発足当初は、トランプ関税などの強力な圧力によって中国から短期的な譲歩を引き出し、その勢いを失速させることができると考えていた節がある。
しかし現実には、中国側もレアアースの輸出規制という強力な対抗手段を持っており、逆に米国のサプライチェーンの脆弱性が露呈する結果となった。中国当局は、中国以外の地域で機能するレアアースのサプライチェーンが確立されるまでには相当な時間を要すると見込んでおり、その間は自国の優位性を最大限に発揮する構えだ。
トランプ政権も、レアアースの問題を含め、一度深く結びついた米中の経済関係を短期間で容易に切り離すことは不可能であるという厳しい現実を、改めて突きつけられた形である。
そのため、トランプ政権は現在、AI革命を見据えた新たな製造業基盤の構築と、中国に依存しない重要鉱物のサプライチェーン構築に注力する方向へと舵を切った。
これらの取り組みが成果を上げるには時間を要するため、AIなどの技術覇権で優位に立ち続けることを最優先課題としつつ、当面は中国との全面対立を避けて関係を管理していく「長期戦」の構えをとっているとみられる。
「バイデン回帰」という皮肉な結果に
こうしたトランプ政権の現在のアプローチは、皮肉にも前任のバイデン政権の対中戦略に回帰しているように見える。
バイデン前政権は、「スモールヤード・ハイフェンス(small yard high fence:小さな庭、高い壁)」を掲げ、安全保障に直結する重要技術の流出は厳格に防ぎつつも、それ以外の分野では経済関係を維持し、短期的には関係の安定化を図るという戦略を取っていた。
いかに強硬なトランプ大統領であっても、対中戦略においては「米国がどこまで自国のサプライチェーンを再構築し、中国への依存から脱却できるか」という現実的な問いからは逃れられなかったということだ。
ただし、逆に言えば、短期的には緊張緩和の合理性があるものの、根本的な覇権争いの対立構造は全く解消されていない。常に変化を好むトランプ大統領の性質を考慮すれば、この安定的な関係を継続するかは、やはり不透明さが残る。
トランプ氏は、条件が不公平だと判断した場合や、自身に有利な条件で再交渉できる機会があると考えた場合には、突如として、再び強硬策に転じる姿勢をこれまでも繰り返し示してきた。
まずは、トランプ政権が9月の習主席の訪米と首脳会談の実現に向けて、トランプ関税という武器に関してどこまで「沈黙」を保つのか。そして、今後の米中関係の試金石となる9月の習主席の訪米と首脳会談において、どのようなディールが交わされるのか。米国が、中国に対する長期戦のシナリオを維持できるのかを見極める上で、その行方が大きく注目される。


