この背景には、トランプ大統領が9月下旬の国連総会に合わせて、中国の習近平国家主席をワシントンに招き、大規模な歓迎行事を行う計画がある。

首脳会談を波乱なく実施し、トランプ政権の成果をアピールできる「ディール(取引)」をまとめるため、政権は新たな関税の導入を秋以降に先送りしようとしている可能性がある。

301条関税の提案から実施までには、通常、公聴会の開催など一定の期間を要する。今すぐ動けば首脳会談の直前に関税が発動されることになり、外交上の大きなリスクとなり得るからだ。

2026年5月14日、天壇を訪れたドナルド・トランプ米大統領と中国共産党の習近平総書記
2026年5月14日、天壇を訪れたドナルド・トランプ米大統領と中国共産党の習近平総書記(写真=The White House/PD US Government/Wikimedia Commons

半導体とミサイル発射への「弱腰」

関税引き上げの遅れにとどまらず、足元では米国の中国に対する「弱腰」とも取れる動きが散見される。

第一に、最先端半導体の輸出容認である。

米商務省で産業・安全保障を担当するケスラー次官は、7月14日の下院公聴会で、米エヌビディアの人工知能(AI)向け半導体「H200」について、中国への少量の輸出が始まったことを明らかにした。

半導体はAIの性能を左右する重要物資であり、米政府はこれまで最先端品の対中輸出を厳しく禁じてきた。しかし、米政府は今年2月に特定の中国顧客に対するH200の少量出荷を許可した。

当初は警戒感を示していた中国政府も、国内AI企業に対してH200の少量購入を許可する方針を示し、最先端半導体の対中輸出が実行に移された形である。これはAI覇権を巡る対中規制の緩和とも受け取れる動きである。

第二に、中国によるミサイル発射への対応だ。

7月6日、中国人民解放軍の原子力潜水艦が太平洋の公海に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。専門家の間では、米国本土を叩ける核戦力を誇示し、対等な立場で交渉のテーブルに着くよう求める「戦略的コミュニケーション」の側面があるとの見方もある。

こうした動きに対し、米国務省は当然ながら非難したものの、トランプ大統領自身が言及することはなく、事態はすぐに沈静化した。実態としては、米国がこの挑発を看過したとみなされてもおかしくない対応だった。

関税には「及び腰」

第三に、中国の貿易合意不履行に対する及び腰な対応である。

トランプ政権で通商政策全般を担当する米通商代表部(USTR)は、昨年10月に韓国・釜山で締結された米中合意の主要目的であったレアアース(希土類)の供給確保について、中国が合意を順守していないと認識している。実際、レアアース関連の主要品目である金属製永久磁石の中国からの輸入は、大幅な減少こそないものの、低水準のまま推移している(図表2)。

米政権は度々懸念を表明しているが、中国からは逆にトランプ関税などに関して反発を受ける始末で、今のところ状況改善の兆しは見られない。トランプ政権内には、中国を公に非難して再び貿易戦争に引き戻す事態を避けようとする雰囲気が広がっているとの見方がある。

米ハイテク企業も、供給のボトルネック解消に向けて幹部を北京に派遣するなど、政府の対応の遅れを補うような独自の外交的取り組みを余儀なくされているのが実態だ。

【図表】米国の中国からの金属製永久磁石輸入(万ドル)
出所=Census。(注)金属製永久磁石の多くはレアアース磁石。