感覚神経の表面にある温度の受容体は、本来熱いものや冷たいものに反応して、その情報を脳に伝達する。ところが永島さんによれば、この受容体は、化学物質とも結合してしまう。

冷たさを受容する受容体が、メントールなどの冷涼感のある化学物質と結合すると、実際には冷たくないにもかかわらず、脳に「冷たい」という情報を伝達してしまうのだ。

同じ理屈で、冷却ジェルシートを貼っても、「冷たい感覚」が得られているにすぎず、「実際に冷やす効果は全くない」と永島さんは言う。

では、冷凍庫で冷やして首に回しかけるネッククーラーはどうだろう。冷凍庫で冷やしている分、冷却ジェルと比べるとたしかに冷たいような気もするが……。

「ひやっとして気持ちはいいけれども、実質的にはほとんど冷えないと思います。だって、どんどん熱をつくっている人間のからだを、同じ温度の同じ量のお湯だと想像してみてください。37℃で50リットルのお湯にネッククーラーを1つ入れたとして、そのお湯は冷えるでしょうか?」

……うーん、お湯は冷えないどころか、ネッククーラーの方が温まってしまいそうだ。こうした「冷やすこと」と「冷たい感覚」の混同が、熱中症対策の仕掛けにおける根源的な間違いを生んでいる、と永島さんは訴える。

手のひらを冷やす効果は、限定的

最近は、複数のメディアで「手のひらを冷やすと効率的に体を冷やせる」という話もちらほら見かける。その真意はどうなのだろう。永島さんに尋ねると、「ああ、AVAですね」と解説してくれた。

AVA(動静脈吻合)は、毛細血管を介さずに静脈と動脈をバイパスのようにつなぐ血管で、体の中心温度と外側の温度を調節する役割を担う。毛細血管よりも太く、交感神経からの指令で、体温変化に応じてその太さが調節される。暑いときはAVAが太くなり、動脈から静脈により多くの血液が流れて、皮膚表面近くの静脈を介して熱を効率的に外に逃がす仕組みだ。

永島さんによれば、このAVAを冷やすことで、体温調節の働きをサポートしようというのが、「手のひらを冷やす」の正体だ。手足や口唇、耳介などに存在するAVAのうち、手のひらが最も冷やしやすい。

しかし永島さんは、「実は手のひらだけを冷やしてもあんまり意味はなくて、もうちょっと先、肘下ぐらいまで水につけて、5分くらいしっかり冷やさないと効果はないんです」という。

「しかも、血管ってとってもセンシティブなので、あんまり冷たいと収縮してしまって逆効果なんですよ。なので、自分の体温がものすごく上がって、体がAVAを開かせようとしているときじゃないと役に立ちません」

特に重症の場合は、氷水をいれたプール(アイスバス)に体を入れて冷やすことが有効だという。しかし実際は、プールを用意するのも氷水を管理するのもなかなか難しい。では、どうすればいいのだろう。

青空と木漏れ日
筆者撮影