クマ鈴があったのに使用していなかった
だが、そもそもこの事故は避けられたのではないかと、三浦は考える。というのも、音によってこちらの存在をクマに知らせるクマ鈴を、携行していながらザックの中に入れたままにしていたからだ。
クマよけスプレーはすぐ構えられるところに装着していたし、石尊山への登りではスマホで音楽を鳴らしながら歩いていた。
しかし、下るときは音楽を流していなかった。クマ鈴を付けていなかったのは、「鈴の音がしていると興が削がれて山に集中できない」と思ったことによる。
「登山をする人なら、ちょっとした道迷いや転倒などは誰しも経験しているはずです。『あれ、道を間違えたかな』『おっと、危うくコケそうになった』といった経験を通して、『気をつけよう』という思いが高まっていくのだと思います。
でも、クマの場合、襲われる経験というのは滅多にないから、本気で気をつけようという気持ちにはなかなかなれません。だから、実はクマに対する警戒意識は高くなかったんじゃないかと思いました。
クマよけスプレーを持っていれば、なんとかなるんじゃないかと考えてました」
軽井沢の山には多くのクマが生息
事故のあとは、クマに対して「こっちはなにもしてないのに、なんで襲ってくるんだ」という、怒りに近い感情もあった。今はもうその感情はない。
冷静になって考えれば、クマの生活圏に入り込んでいるのは自分のほうだし、ましてや明瞭な登山道ではないところを歩いていたわけである。クマ鈴を付けて歩いていれば防げていたかもしれないのに、それもしていなかった。
その結果、至近距離でいきなり出くわしてしまい、クマも興奮状態となったのだから、非は自分のほうにある。いわば、油断が招いた事故であった。
事故直後、軽井沢の病院で処置を受けているときに、地元の警察官やクマの保護管理に取り組むNPO法人「ピッキオ」のスタッフが同席し、事故の経緯などについて話を聞かれた。
その際に、軽井沢の山には多くのクマが生息していることを知らされた。後日、ネットで調べてみると、事故現場の近くでクマの目撃情報があったことも知った。
「軽井沢町はこまめにクマの目撃情報を発信しているんです。もしこれを見ていたら、登山道を外れないコースをたどっていたと思います。
でも、最新のクマの目撃情報をチェックするにはどうすればいいのか、なかなかわかりにくいですよね。登山地図アプリなんかと連携して、地図に表示してくれるようになれば、いちばんいいんですけど」



