中指の腹の肉がごっそり齧り取られ
病院に到着後、傷の応急手当をしてもらい、軽井沢の宿泊施設までタクシーで戻った。翌日の新幹線で帰京し、地元に近い病院で再診察を受けた結果、1週間入院することになった。
傷の状況は、左耳裏、左足首、左中指の挫傷および左示指中節骨の骨折という診断であった。耳と足首の傷は縫合したが、中指の腹の肉がごっそり齧り取られて縫える状態ではなかったので、消毒のみで済まされた。
東京の病院だったゆえクマの襲撃による受傷者が珍しかったのだろう、傷の写真を何枚も撮られた。
入院が1週間に及んだのは、傷の治療に加えて、野生生物に噛まれたことにより傷口からばい菌が入って感染症を引き起こす恐れもあったからだ。それを防ぐために、破傷風のワクチンや抗生物質も投与された。
傷が左半身に集中していたワケ
傷の治療を続けるなかで、気づいたことがある。それは、クマに負わされた傷が体の左半身に集中していたことだ。
「襲われたときに、主に右足で蹴って応戦していたせいかもしれません。右側には容易に近づけないので、左側から襲いかかってきたと。でも、もしかしたらあのクマは右利きだったんじゃないかとも思うんです」
前出の「note」にも三浦はこう書いている。
〈そう僕が熊から負わされた傷はすべて体の左半身に付いていたのだ。右半身には一切の傷がない。ここから導かれる仮説がある。「熊には利き腕がある」ということ。偶然でこんなに左半身だけ傷付くだろうか。あいつ絶対右利きだ。熊に出会ったらそいつの利き手(足)がどっちか見極めることがポイントになるかもしれない〉
クマに利き手があるのかどうかはわからないが、クマと対峙したときに手を開いて身構えたのは失敗だったと思っている。
致命的な重傷がなかったのは不幸中の幸い
「手を開いていたから噛みやすかったんでしょう。もし次回、同じような状況に遭遇したとしたら、手は握っていないといけないなと思いました。そういう意味では、ボクシングのファイティングポーズって理にかなっていますよね。
好んで闘いたいわけではないんですが、しっかりガードを固めていると、噛まれにくいような気がします」
事故後1カ月ほどは、目を閉じるとクマに襲われたときのシーンがまざまざと思い起こされた。闘っているときは、「もしかしたらこれで死ぬかもしれない」などとはまったく考えなかった。
頭にあったのは、とにかく今のこの状況をどう切り抜けるかということだけだった。必死になって抵抗したのが功を奏したのかどうかは不明だが、クマの攻撃は短時間で終わり、致命的な重傷を負わなかったのは不幸中の幸いだった。

