いかに公平であるか
「でもね、大きな公的試験だと、監督者はむやみに拾わない、っていうマニュアルになってることがあるんだ。生徒が手を上げて、『拾ってください』と言うまでは、拾ってはいけないと書いている」
「えっ、そうなんですか」
「そう。変だよね。私も最初に聞いたときは、ずいぶん機械的だなと思った」
「拾ってはいけないのはなんでですか」
「もし、落としたことに先生が気づいた生徒には拾って、気づかなかった生徒には拾わなかったら、『対応に差があった』って言われる可能性があるから」
F先生は眉をひそめた。
「でも……気づいたなら、助けてあげた方がよくないですか」
「教育の感覚で言えば、そうなんだよ。私も本音ではそう思う。でも入試は、『実際に公平だったか』だけじゃなくて、『誰から見ても公平に見えるか』まで問われる場なんだ」
F先生は少し黙ってから、ぽつりと言った。
「見た目の公平、ですか」
「そう」
E先生はそこで少し間を置いた。
「挨拶もね、学校の日常なら、元気よくして悪いことはほとんどない。でも入試になると、『その声で緊張した』『圧を感じた』『平常心を崩した』と言われることがある。こちらに悪気がなくてもね」
刺激を減らす配慮
F先生は納得しきれない顔のまま、けれど真面目に聞いていた。
「じゃあ……無言で立ってる方がいいってことですか」
E先生は、少しだけ困ったように笑った。
「そこまで極端じゃなくていいんだけどね。ただ、入試当日は、普段よりも一段階、刺激を減らす意識が必要なんだと思う」
「刺激……」
「大きな声、急な声かけ、過剰な励まし、そういうのを避ける。もちろん、体調不良とか困っている様子があれば別だけど」
F先生は小さく息を吐いた。
「……申し訳ないです。そんなふうに受け取られるとは思ってなくて」
E先生はすぐに首を横に振った。
「謝らなくていいよ。そこを責めたいわけじゃないんだ。来年以降のために、私たちも共有しておいた方がいいね、っていう話だから」
そのあとE先生は、念のため他の教員にも当日の様子を確認した。校門付近にいた教員、昇降口担当、廊下担当。返ってくる答えはほぼ同じだった。
「普通の挨拶でしたよ」
「特に威圧的な感じはなかったです」
「むしろ明るくて感じがよかったと思いますけど」
同僚の一人は、少し呆れたように言った。
「そこまで言われるんですね……」
