「50回以上の試食」を経て新商品が作られる
繊細なフレーバー開発は今なお健在だ。新フレーバーの開発時には今も50〜60回もの試食が実施されるほか、グリーンティー(抹茶味)のようにミニカップで提供しているフレーバーを移植する際には既存のアイスクリームの味をわずかに調整して変更している。ウエハースやコーティングとの調和を何よりも重視しているのだ。
さらに、試食の現場では、素人には及びもつかない緻密な議論が交わされると平野さんは語る。
「私も試食に参加するようになって驚いたのですが、R&Dのベテラン社員たちは『この味は作り立てよりも、1週間後にはもっと美味しいだろうね』といった会話をしています。それまで私は、アイスクリームの味に1週間後も1カ月後も大差はないはずだと考えていたので衝撃でした。そして、実際に1週間経った試作品を口にすると、ベテラン社員の言った通りに味の感じ方が変わっています。もちろん、これは試作段階の話であって、完成した商品に味の変化はないのですが、ハーゲンダッツを支えているのは、こうした味のエキスパートたちなのだと改めて実感した出来事です」
アメリカで生まれたアイスクリームを日本向けの新たな形へと作り変えるアイデア力。コンマ数ミリ単位で弛まぬ改良を重ねる技術力。味の調和や経年変化を感じ取る繊細な舌。クリスピーサンドは日本的な感性や特性が育て上げた、ハーゲンダッツ ジャパンが世界に誇る独自商品だった。
その完成度をグローバル市場も見逃さなかった。発売にあたり、ハーゲンダッツのブランドを保有しているジェネラル・ミルズからは視察団が派遣され、開発チームのメンバーは質問攻めに合った。「なぜウエハースのパリパリ感を保てるんだ?」「このフレーバーの原材料は何だ?」。極東から突如現れた、まったく新たな商品に親会社の社員たちも目を丸くしていた。
アジア市場にも広がる
さらに現在では、アジア市場で高い人気を誇っている。その人気の要因も「日本」だ。
「海外ではあまり見られない独自の食感に加え、アジア市場では今なお『日本ブランド』は根強いです。スイーツにおいても品質の高さなどを背景に、日本製の商品を手に取るお客様が多くいらっしゃいます。私たちがゼロから開発した商品が、こうして海外で広く受け入れられていることに誇らしい思いです」
発売以来、25年間で約7億個を売り上げたクリスピーサンド。今やミニカップなどに次ぐ事業の柱として地位を確立しているが、今後の伸び代も十分だ。平野さんは「実はクリスピーサンドの市場における認知度は現状で5割程度なんです」と語る。
人気の定番商品とはいえ、主力商品であるミニカップには認知度で遅れを取る。しかし、だからこそ、さらなるシェア拡大に期待が集まる。和菓子ではなくタコスからひらめいた発想力、コンマ数ミリのコーティングを磨き上げた技術力、そして1週間後の味まで見通す職人的な舌。
クリスピーサンドは、日本人的な感性と職人気質がゼロから育て上げたアイスクリームなのだ。


