️「世の中にないもの」を作りたい

「ハーゲンダッツ史上稀に見る」とは、どういうことだろうか。まずは日本におけるハーゲンダッツの歴史を遡りたい。日本でのハーゲンダッツの販売開始は1984年。バニラ、ストロベリーなど、現在も定番商品に名を連ねるフレーバーがパイント(約473ml)で発売され、翌年には日本市場向けの食べきりサイズ「ミニカップ」が誕生する。

その後、コンビニでの販売開始や世界初のTVCMを日本で開始するなど、ハーゲンダッツのブランドは着実に日本市場へ根を下ろしていく。

しかし、日本上陸から10年以上が経った1990年代半ばになっても、販売される商品のほとんどが海外発のフレーバーだった。創業以来、原材料調達や製造は日本国内で実施していたものの、日本の消費者の嗜好に合う商品開発の壁は高かった。その一方で、ハーゲンダッツ ジャパンの社内では、日に日に「日本独自の商品を届けたい」という思いが湧き上がりつつあった。

本社オフィスの壁面にプリントされている、ハーゲンダッツの主力アイスの歴史を説明した展示の一部
撮影=プレジデントオンライン編集部
本社オフィスの壁面にプリントされている、ハーゲンダッツの主力アイスの歴史を説明した展示の一部。この資料でも食感が強調されている

そこに転機が訪れる。クリスピーサンドの開発のきっかけとなった、ある取り組みがスタートしたのだ。

「1994年に新商品開発を目指す『WOW!Project(ワオ プロジェクト)』が発足します。WOW!Projectは消費者が思わず『ワオ!』と驚くような商品を開発するための社内プロジェクトです。つまり、パイントやミニカップではなく、『世の中にないもの』を作りたいと。今、振り返ると、このネーミングはプロジェクトのその後を予見していたようにも思います。なぜなら、実際にそれまでにないクリスピーサンドという商品が生み出されるからです」

️元ネタは「もなか」だと思ったが…

世界で絶大な知名度と人気を誇るハーゲンダッツ。その歴史に日本独自かつ斬新な商品を刻みたい。熱い思いに燃える開発チームがたどり着いたのがクリスピーサンドだった。

「日本独自」で「サンド」といえば、最初に想起されるのは「もなか」だろう。クリスピーサンドの形状も和菓子のもなかに類似している。和菓子とアイスクリームの融合。なるほど、これこそ日本が世界に送る新感覚デザートだ!と膝を打ちそうになるが、平野さんは苦笑いで否定する。クリスピーサンドの着想となったのは、もなかではなく「タコス」なのだという。

「クリスピーサンド」シリーズの「ザ・リッチキャラメル」の商品写真
提供=ハーゲンダッツジャパン
「クリスピーサンド」シリーズの「ザ・リッチキャラメル」の商品写真

薄くてサクサクのトルティーヤにひき肉や野菜を挟んで食べる。その食感と濃厚なアイスクリームを手に持って食べる喫食体験を提供するのが、クリスピーサンドのコンセプトだった。アイスクリームの味や香りではなく、食感や喫食体験を起点にした商品開発は当時のハーゲンダッツでは異例中の異例。世界でも極めて稀なプロジェクトだった。

では、クリスピーサンドのどこに「日本独自」が潜んでいるのだろうか。それは日本の工芸品や精密部品を思わせる、繊細で丁寧な製法だ。