中止できないから完成させる
皮肉なことに、仮に中止に舵を切るにせよ、今後5年間の建設費よりも中止費用のほうがかさむ見通しだという。違約金だけで、サウジ政府が見込む2026年の財政赤字全体の3分の1を超える計算だ。
もはや背に腹は変えられず、現実的な折衷案が模索されている。サウジアラビアのムハンマド・アル・ジャダーン財務相は今年1月、ダボス会議の場で、「プロジェクトを減速させることに、問題も恥もない」と言い切った。
問題のシンダラについては、新たな引き受け手が現れた。紅海沿岸でリゾート開発を手がけるサウジの政府系開発会社、レッド・シー・グローバルだ。
シンダラの運営を引き継ぐ方向で、すでに水面下で調整が進んでいる。同社最高経営責任者(CEO)のジョン・パガーノ氏は6月18日、ローマで開かれたサウジ関連のビジネス会議でロイター通信の取材に応じ、「正式な引き渡しはまだだが、いずれ行われる」と語った。
「完成させる方法を検討し、私たちが再び息を吹き込む」と続けたが、「再び」の言葉には、島の厳しい現状が表れている。
レッド・シー・グローバルは紅海沿岸で現在14のリゾートを運営し、年末までにほぼ倍の27施設へ拡大する計画を掲げる。当初は1泊約2000ドル(約32万5000円)という超高級路線で批判を浴びたが、いまでは1泊400〜500ドル(約6万〜8万円)の施設も加え、間口を広げた。
紅海に浮かぶ「きれいな廃墟」
紅海でスーパーヨットの聖地となるはずだった、高級リゾート島のシンダラ。
島のオープン当時、サウジ通信社が誇らしげに伝えていた表現を引くならば、「2028年までに1日最大2400人の来訪客」を迎え、「約3500の雇用を生み出す」はずだった。
ところが、現在でも変わらず美しい紅海に佇むのは、訪れる客がほとんどいない空っぽの島だ。実需を度外視し、調査不足から荒波という島の特性さえ見逃したシンダラは、「きれいな廃墟」さながらの状態となった。
ビジネス・インサイダーによると、サウジアラビアは2030年までに年間1億〜1億5000万人の観光客誘致を目標に掲げている。ネオム全般のたび重なる計画変更を踏まえれば、見通しが堅実とは言い難い。
約6500億円を投じた末に、訪れる者がほぼいなくなった楽園は、今日も荒波の紅海にぽつりと浮かんでいる。


