「皇太子の欠席」が意味すること
セレブが押し寄せた「レッド・シー・ウィーク」から、わずか数週間後のこと。2018年からネオムを率いてきたナドミ・アル・ナスルCEOが、突然退任した。
公式には「新たな実行段階への移行」が理由に掲げられたが、関係者は口を揃える。引き金はあのパーティーの惨状だった、と。
贅を尽くしたイベントの数々は、駆けつけた参加者にこそ好評だった。招待客の一人であるアレクサンダー・ユリッシュ氏はロブ・リポートに対し「すべてが見事にキュレーションされていた」と絶賛。マリーナについても、ヨットの船長やクルーたちが「素晴らしい」と口々に称えた。
だが、舞台裏は混迷を極めていた。島の誕生を祝うイベントに反するかのように、ホテルは未完成のままで、敷地の大半において目下建設中という状況。仕上げも粗く、発案者であるムハンマド皇太子は「予想外の欠席」で姿を見せなかった。多くのスタッフは、不満の表れと受け止めた。
関係者の一人はロイター通信に、「急いで仕上げようとして失敗した。それがナドミにとって、ラクダの背を折る最後の藁になった」と振り返る。積もり積もった問題の果てに、あの夜の失態でとどめを刺されたという見立てだ。
CEOの退場に続き、ホテル部門でも幹部が大量に入れ替わり始めた。同部門を4年間率いたクリス・ニューマン氏が退任したのを皮切りに、ネオムはホテル部門の幹部層の大半を一掃したと、アラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトが昨年9月に報じている。人材担当責任者、イノベーション責任者ら幹部も相次いでプロジェクトを去ったという。
異議を唱えた担当者は解任された
立地の問題も見過ごされていた。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、辺境で進むネオムの建設現場には一般に、現地周辺で労働力をほとんど確保できないと指摘する。同紙によると、資材の搬入に欠かせない大型の港も、各所に重機を送るために必要なだけの十分な道路も、電力も不十分だったという。
なぜ、これほど明白な問題が途中で是正されなかったのか。同紙が入手した内部監査報告書からは、組織ぐるみの隠蔽体質が浮かび上がる。
「最終草案」と記されたこの報告書によれば、幹部らはネオムのビジネスプランに非現実的なほど楽観的な前提条件を織り込み、膨れ上がるコスト見積もりを正当化していた。単に見通しが甘かっただけではなく、意図をもって数字をねじ曲げていたというのが、この監査報告書の結論だ。
とりわけ象徴的なのが、アントニ・ビベス氏の振る舞いだ。ネオム全体のビジョン統括を担い、のちにシンダラの責任者も兼ねた人物である。コストの増大を見直すことなく、帳簿上の収益予測を吊り上げることで帳尻を合わせた。
重要な会議の前には、米マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントや同僚に「コストについて自分たちから積極的に言及してはならない」とメールで指示していたという。コスト試算に異議を唱えたシンダラのプロジェクトマネージャーが解任されており、異論が許される組織文化ではなかったようだ。
2024年末のCEO退任を受け、サウジの公共投資基金(PIF)がネオム全体の監査に乗り出したことで、こうした実態が明るみに出たと、セマフォーは伝えている。

