240兆円の“未来都市計画”に赤信号

世界有数の産油国サウジは、原油相場の浮き沈みに国家財政が左右されるという根深い脆さを抱えてきた。

そこで依存からの脱却を掲げたのが、2017年に発表された未来都市計画ネオムを含む経済多角化政策「ビジョン2030」だ。観光・テクノロジー・エンターテインメントを新たな成長の柱に据える。

だが、原油相場の下落に伴い、脱却計画自体に赤信号が灯った。米ビジネスニュース専門局のCNBCによると、国際通貨基金(IMF)が試算した2024年のサウジの財政均衡油価、つまり政府予算の収支を均衡させるために必要な原油価格は、1バレルあたり96.20ドル(約1万5600円)。前年から約19%も跳ね上がった。ところが2024年11月時点で、国際指標の北海ブレント原油先物の実勢価格は約72ドル(約1万1700円)。均衡油価を約25%下回る水準である。

一方、建設費は天井知らずだ。セマフォーが昨年7月に伝えたところでは、当初5000億ドル(約80兆円)とされたネオムの建設費は計画の拡大とともに膨れ上がり、すでに当初比3倍の1兆5000億ドル(約240兆円)に達している。日本の年間国家予算のおよそ2倍にあたる。中東の観光拠点として確固たる地位を築いていたUAEのドバイに対し、サウジは超高級路線で勝負に出たが、これもコスト増大に繋がったとみられる。

ライス大学ベーカー公共政策研究所のクリスティアン・コーツ・ウルリクセン研究員は、ビジネス・インサイダーの取材に対し、「ドバイが冬を楽しみたい大衆市場を狙うのに対し、サウジはますます超高級市場に自らを押し上げようとしている」と分析。シンダラをその筆頭に挙げた。

「170キロの直線都市」は2.4キロに大幅縮小

こうした財政圧力の下、サウジはネオムの壮大な計画を軒並み縮小せざるを得なくなっている。

構想の目玉だったのは、砂漠地帯を貫く全長170キロメートルの直線都市「ザ・ライン」。延々と続くビルの壁で内部空間を囲い込み、快適に居住・移動できる空間を砂漠に生み出す構想だった。CNBCが伝えたところでは、2030年までの建設目標が当初計画の106マイル(約170キロ)からわずか1.5マイル(約2.4キロ)へ縮小されたと報じられた。

ザ・ラインのコンセプト画像
出所=NEOMオフィシャルサイト「ザ・ライン」より
ザ・ラインのコンセプト画像

緊縮の波はネオムにとどまらない。ロイター通信によれば、政府系ファンドPIF傘下の別事業としてリヤド中心部で計画されていた1辺400メートルの巨大な黄金色の立方体建造物「ムカーブ」も建設が凍結されている。

アラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトの取材に応じた匿名の上級幹部は、「ネオムで工事が続いているかと聞かれれば、答えはイエスだ。作業員は現場にいるし、忙しくはしている」と強調した上で、「だが、速く進んでいるかと聞かれれば、ノーだ。ほぼ全プロジェクトの支出が凍結され、厳しい再評価にかけられている」と認めた。

仮に計画から撤退するにも、サウジは無傷ではすまない。今年6月のセマフォーの報道によると、サウジはネオムにすでに総額640億ドル(約10兆4000億円)を投じている。そのうえ2026〜2030年の予算には、建設業者との長期契約を解除するための違約金として600億リヤル(約160億ドル)(約2兆6000億円。7月9日現在のレート、1サウジリヤル43.3円で換算)が計上されている。