「電話するな、何もするな。とにかく黙っていろ」
国際法の旗国主義の原則上、公海上の船舶に対し管轄権を持つのは、旗を掲げる権利を与えた旗国(多くの場合は船籍国と同義)である。ディズニー・ドリーム号はバハマ船籍であることから、捜査はロイヤル・バハマ警察に引き継がれた。容疑者はその後、ディズニーが手配した飛行機でインドの自宅へ送還されている。
性的被害への対応が鈍いディズニーに対して声を上げたのが、元ディズニー・クルーズライン警備担当者のドーン・タプリン氏だ。
パーム・ベイ警察で性犯罪捜査に携わったキャリア17年のベテラン元警察官で、ディズニー・クルーズライン初の女性セキュリティー・オフィサーである。クルーズ業界全体でも2人目だ。前述のエレベーターの件で少女に事情を聞いた人物でもある。
タプリン氏が沈黙を破るきっかけとなったのは、エレベーターとは別の事件だった。タプリン氏はディズニー・ドリーム号の乗組員が13歳の少女へのわいせつ容疑で逮捕されたとの報道に接し、相次ぐ事件を前に、自らの体験を公にする決意を固めたという。
タプリン氏は在職中、事件に関して社内で、「電話するな、何もするな。とにかく黙っていろ」と命じられたと証言している。逆らえば解雇されると恐れ、指示に従ったという。
タプリン氏の告発に対し、ディズニー・クルーズラインのカール・ホルツ社長は、「当社のセキュリティー・オペレーションと担当オフィサーたちに絶大な信頼を置いている。全員が豊富な治安関連の経験を持ち、ほぼ全員が法執行機関か軍での広範な経験を有する」と強調。「タプリン氏による当社セキュリティー・オペレーションの評価には同意しない」と退けた。
人員の資質には自信を見せたものの、通報の遅れや出港判断の経緯については触れなかった。
少女の裸を「船にいるとき用に」保存
2019年11月にはフロリダ州で、ディズニー・クルーズラインの従業員が少女に繰り返し性的暴行を加えた容疑で逮捕されている。タプリン氏を突き動かしたのとはまた別の事件だ。
CBSニュースの報道によると、逮捕されたのは米フロリダ州の男(当時53歳)。ディズニーの会員制リゾートプログラム「ディズニー・バケーション・クラブ」を通じてディズニー・クルーズラインに勤務していた人物で、同年11月25日、フロリダ州オレンジ郡保安官事務所に身柄を拘束された。
逮捕状の宣誓供述書によると、被害者の少女(当時13歳)は母親に対し、2016年から2019年にかけてサイツの自宅で複数回にわたりレイプされたと打ち明けた。最初に被害に遭ったのは、少女がわずか10歳のときだったという。
保安官事務所の担当者に対して少女は、男に裸姿を撮影され、写真は「クルーズ船にいるとき用に」とスマートフォンに保存された、と証言している。
男は計5件の罪状を突きつけられた。12歳未満の子どもへの性的暴行2件、身体的に抵抗できない者への性的暴行2件、12歳未満の被害者へのわいせつ行為1件である。彼は保釈を認められず、オレンジ郡拘置所に収監された。
ディズニーの旅行・体験事業部門、ディズニー・シグネチャー・エクスペリエンシズの広報責任者シンシア・マルティネス氏は、地元紙の取材に対し、裁判の結果が出るまでサイツを無給休職処分としたと述べるにとどまった。

