SNSでは誤情報も拡散

逮捕劇のニュースはSNSで瞬く間に拡散され、一部の投稿は数百万回閲覧された。ただし、拡散された情報には事実と異なる内容も少なからず紛れ込んでいた。米ファクトチェックサイトのスノープスが、この騒動の事実関係を検証している。

スノープスによると、2026年5月、「ディズニー・クルーズラインの乗組員28人が児童性的人身売買の一環として逮捕された」との主張がネット上で広く拡散された。数百万回表示された投稿もある。これに対してスノープスは、「事実も虚構も含まれるようだ」としつつ、正式な評定は見送っている。丸ごとのデマではないが、そのまま鵜呑みにもできないという評価だ。

では、何が事実で、何が虚構なのか。CBPはスノープスの取材に対し、4月下旬に8隻のクルーズ船で計28人を逮捕した事実を認めている。スノープスが、移民支援団体ウニオン・デル・バリオがサンディエゴの地元ABC系列局に語った内容を取りあげている。それによると、28人のうちディズニーの乗組員は10人、他社クルーズ船のホーランド・アメリカラインが4人だったという。

つまり28人全員がディズニーの乗組員だったわけではなく、拡散された「ディズニーで28人逮捕」という数字は、複数社にまたがる逮捕者を一社に集約してしまったものだった。スノープスはディズニー乗組員の正確な逮捕人数を独自には確認できなかったとして、評価を「未評定」にとどめている。また、NBCサンディエゴは前述の通りCSEMの所持・閲覧などと報じており、児童の人身売買が行われたとの情報とは異なる。

SNS上では「逮捕の瞬間」とされる動画も拡散された。スノープスが、画像から元の出所をたどる「逆画像検索」で調べたところ、正体はまったくの別物だった。2022年にオクラホマ州タルサで、精神保健上の問題(メンタルヘルス・エピソード)を起こした女性に関する事案で、警察が現場に踏み込んだ際のボディカメラ映像である。ディズニーともクルーズ船とも一切無関係だ。

繰り返し報じられてきた「クルーズライン性犯罪問題」

センセーショナルな誤報が広まる一方、ディズニー・クルーズラインの性犯罪問題は、何年も前から繰り返し報じられてきた。

なかでも2012年の事件については、米オーランドCBS系地方局のWKMGニュース6が調査報道を実施し、安全管理体制の不備に疑問を投げかけている。

2012年8月、客船「ディズニー・ドリーム」号の船内エレベーターで事件は起きた。同局は、ダイニング給仕係の男(当時33歳)が、11歳の少女の胸を触り、キスをしたと報じている。

報道によると、当時船内の保安責任者だった女性が事件直後、少女から事情を聞いた。少女はまだ泣いたまま動揺していたという。保安責任者は、船内の防犯カメラに残された当時の映像を見て衝撃を受けたと語る。

「涙が出た捜査はこれが初めてではありません。でも、あの子は本当に彼から逃げようとしていた。脚をばたつかせ、必死に振りほどこうとしているのが映像で確認できます」と、同局の取材に述べた。

ディズニー・ドリーム号
ディズニー・ドリーム号(写真=ajmexico/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

少女が被害を訴えた後もディズニー・ドリーム号は航行を取りやめることなく、午後5時2分、フロリダ州ポート・カナベラルを出港したという。被害者と容疑者の双方を、船という閉鎖空間に乗せたまま、である。

ディズニー・クルーズラインがポート・カナベラル警察、FBI、米沿岸警備隊に通報したのは、翌日になってからだった。そのとき船はすでにアメリカ領海を離れていた。ディズニー側の説明によれば、3機関はいずれも捜査に乗り出す意向を示さなかった。