重要なのはワーク・ライフ・インテグレーション
では、かなり一般的な思考傾向が職場や職場以外の場所でどのような作用をおよぼすかを考えてみよう。多くのマネジャーが有能で仕事熱心な社員の特徴は、家族や個人生活のことは会社の入り口できれいさっぱり忘れ、就業時間中は100%仕事に集中できることだと長年考えてきた。この考えは強力だ。それは仕事で成功するためには何が必要で、会社は社員の価値やパフォーマンスをどのように評価するかという予想を形づくり、マネジャーの行動の仕方を形づくるのだ。
問題は、この考えは間違ったものでもあることだ。ハーバード・ビジネス・スクール教授のロザベス・モス・カンターは、1977年に、社員の仕事と個人生活の関係についてマネジャーが問題ある考え方をしていることを言い表すために「別々の領域という神話」という言葉を編み出した。それは当時、神話だったのであり、今も神話である。人間は自分の生活を完全に切り離すことなどできはしない。社員にそれを期待したら、緊張を高め、生活の複数の分野を充実させることを意図的に求めることで得られる利益を減少させることになる。
企業がワーク・ライフ・インテグレーション(仕事と個人生活を統合し、双方の充実を求めること)による相互の利益に次第に気づいてきている一方で、別々の領域という考えは今なお根強く残っている。
では、別々の領域という考えとワーク・ライフ・インテグレーションによる相互利益という考えは、行動にどのように表れるのだろう。私自身が職業人生の初期のころ経験したきわめて対照的な2つの例が思い浮かぶ。私は20代のとき、ある組織で5年間働いた。最初の2年と残りの3年は別々の部に所属していたのだが、2つの部は隣同士にあって関連した仕事をしていたにもかかわらず、マネジメント・スタイルや文化はずいぶん違っていた。