兄と夫の大喧嘩
2021年。兄が60歳になり、定年退職した。
そのあたりから、幼少時から険悪だった兄との関係性がさらに悪化していく。
「定年になり、こちらに目が行くようになったからか、関係が悪化しました。もしかしたら、夫が兄と電話で揉めたことが原因かもしれません」
夫と兄が揉めていたというのは、以下のような顛末だ。
兄が定年退職してしばらくした頃、夫に増井さんの長女が「伯父さん(増井さんの兄)がアレをやれ、コレをやれ、とお祖母ちゃんの介護の指図をしてきて大変なんだ」と話した。
すると夫は、増井さんが知らない間に兄に電話をし、
「お前なんなんだ? 息子ならうちの娘に指図してないで自分でやれよ!」
と怒鳴ったのだ。
突然怒鳴られた兄はビックリしたようだったが、負けじと言い返し、大喧嘩になってしまったという。
「それまでは、義理の兄弟として当たり障りのないやり取りしかしたことがなかったのに、私も突然のことで驚きました。互いに何がそんなに逆鱗に触れたのか謎です。兄としては、祖母の家に来た姪に手伝いを頼むのは全然不自然なことではないと思いましたし、長女も、不満があったとしても、わざわざ夫にそんなことを言わなければよかったのに……と思いました」
このことが原因かどうかは分からないが、次々に事件が起こる。
家を追い出される
兄が働いていた頃は、増井さんが実家に住み込む形で母親を介護することには、兄は無関心だった。
それにもかかわらず、定年した途端、突然「保険証や診察券、介護証を出せ」と増井さんにすごみ、出すとその場で奪って、「これからは俺が主導で介護する!」と言われた。
「話し合いも何もありませんでした。その頃から、私が実家にいると、実家には来なくなり、徹底して避けられるようになりました。話しかけても、ひと言も返事をしてくれません。中学生くらいの頃からなぜか私のことは嫌っていたようでしたが、定年までは少し話せるようになってきていたのに、わけがわかりません」
いつしか、増井さんが母親、兄が父親の世話という暗黙の割り振りができていた。
そんなひどい扱いに耐えていた増井さんだったが、2023年5月のこと。実家に行くと、兄が父親の布団をどこかへ持って行こうとしているところに遭遇してしまい、思わず
「そんな汚い布団、外へ持って行って!」
と不躾に声をかけてしまう。
「父は、秋から5月まで一度も布団を干していなかったからです。私は昔から変わり者の父と兄を必要以上に興奮させないように気遣いながら、なんとか実家に住み込んで母の介護をしていました。でも、家の中で鉢合わせになった時、触れないようにしていた私の中の爆弾が破裂してしまった感じです」
兄は、嫌っている妹に指図されて激昂した。
「出ていけー!」
大声で怒鳴り、顔を歪めて激しく怒り狂う。
「私ももう、我慢の限界でした。父は、毎日朝昼晩、台所に居座って、ノロノロ食事の準備をするし、食べている時間が長く、私とどうしてもかぶってしまうため、私がやることを観察しては気に障ることばかり言ってきました。私は無視を決めていましたが、父に対しても我慢の限界でした。トイレや風呂も、口の悪い父と共同であることが嫌になっていました。本当に、なんで我が家はこんなにチグハグで、私はバカなことで悩まなければいけないのか。助けに来てるのに、情けなく、つらい毎日でした。父なんて『早く死んでほしい』とさえ思いました」
すぐに増井さんは、夫に相談し、実家の近くにアパートを探した。必要なものを購入し、長女とともに自宅から運び込んだ。アパートの家賃は夫が出してくれた。
「お金も無駄だし、荷物の搬送も大変だし、そうかと言って母の介護を投げ出すことできず、悩みました。お金がかかっても、静かな環境で暮らしたいと思いました。その後のことは考える余裕はありませんでした。今より少し若かったのでできたと思います」
増井さんは、アパートから通いで母親の介護をしようと考えたが、しばらくは実家に行く気になれなかった。

