灼熱の砂漠に密閉ビルという矛盾
計画の中断以前から、そもそも構想に無理があったとの指摘もある。
ムカーブを擁するニュー・ムラッバ計画が掲げる看板は「持続可能なスマートシティ」だ。だが、その中心に据えられたムカーブの設計を見れば、この看板と真っ向から矛盾していることは明らかだ。
サウジ政府は気候変動対策として「サウジ・グリーン・イニシアチブ」を掲げ、都市に緑のオープンスペースを整備する目標を打ち出している。ところがムカーブは、四方と天井を壁に囲まれた閉鎖空間だ。年間を通じて冷房と人工照明なしには成り立たない。両者はおよそ相容れないと、米シンクタンクのアラブ湾岸諸国研究所は指摘する。
しかもサウジアラビアは、世界有数の水不足地域である。そのサウジにあって、この規模の施設を維持するには、膨大な水の工面が欠かせない。
環境面で懸念されるのは、それだけではない。建設時に生じる大量の廃棄物、資材の輸送や稼働時の炭素排出も避けられない。首都の中心部にこれほど巨大な建築フットプリント(建物が地表に占める面積)を投じれば、砂漠とはいえ既存の生息環境が破壊され、地域の生態系を損なうリスクもあると同研究所は警告する。
「サステナビリティ」は見せかけだけ
これほど矛盾が明白でありながら、なぜ「持続可能」の看板を掲げ続けるのか。同研究所は、より根本的な批判があると紹介している。一部の研究者たちは、湾岸地域の指導者が、「近代性と技術的先進性、そして福祉の余裕というイメージを打ち出し、正当性と権力を固める」ための道具として、「サステナビリティ」の言説を繰り返し利用しているにすぎないと批判する。
すなわち、環境への配慮を演出しつつ、社会的な課題には目を向けない、いわゆる「グリーンウォッシング」(見せかけだけの環境配慮)だという指摘だ。
批判が相次ぐなかでも、建築の専門家のあいだには、ムカーブが都市の新たな象徴になりうると見る声がある。
コロンビア大学建築学科の非常勤教授で、アラブ湾岸諸国研究所の非居住フェローも務めるヤセル・エルシェシュタウィ氏。ムカーブの設計コンペに招かれたチームの一員として、自ら設計に携わった経験を持つ人物だ。
2023年2月、彼はサウジアラビア英字紙のアラブニュースの取材に対し、「欧米やアラブの観察者にはこうしたプロジェクトを一蹴する傾向がある」と認めつつも、「客観的に見ればそれ以上のものだ。真剣な思考が伴っている」との持論を示した。

