壮大なのは構想だけ

サウジが巨大開発で挫折を味わうのは、ムカーブが初めてではない。何度も繰り返されてきたパターンに、新たな事例が加わったに過ぎない。

昨年10月、リヤドで開催された大規模な投資フォーラムで、当局者たちの口調にかつての勢いはなかった。タイムズによれば、あるサウジ当局者は、「資金を使いすぎた。時速100マイルで突っ走った。今は赤字を抱えている。優先順位を見直す必要がある」と認めた。

こうした挫折を象徴するのが、サウジ北西部で進む未来都市「ネオム」計画の目玉、「ザ・ライン」の大規模縮小だ。紅海のリゾート地ネオムから内陸に向かって全長170キロメートル、すなわち東京から静岡に達するほどの距離にわたり、鏡張りの直線型都市を築く。150万人を住まわせる、壮大な構想だった。

ところが、実際には建設規模が段階的に縮小。最新の状況では、わずか数キロメートルにまで計画が後退し、2030年までの想定居住者も約30万人に引き下げられている。さらに、今年5月22日には米国拠点のデジタルニュースメディアのセマフォーが、同年までの目標人数が最大10万人へと再度引き下げられたとスクープした。

630億ドル(10兆2000億円)規模のディリヤー開発計画を率いるジェリー・インゼリッロ氏は、「2040年の生活の質がどのようなものになるかを探る実験室として位置づけたほうが、より正確だったかもしれない」と、現実の不動産プロジェクトと位置づけたこと自体が不適切だった可能性を認めている。そっくりそのまま、ムカーブにも当てはまりそうな弁明だ。

加えて、紅海に浮かぶ島型リゾートの「シンダラ」も劇的な顛末を迎えた。ネオム計画の一角として建設された10億ドル(約1610億円)規模の施設で、世界最大級のスーパーヨットを収容するマリーナを備えていた。2024年のVIP向け開業パーティーには歌手のアリシア・キーズ、俳優のウィル・スミスも駆けつけた。

シンダラのコンセプト画像
シンダラのコンセプト画像(出所=サウジアラビア「ビジョン2030」公式ホームページより)

皇太子の逆鱗に触れた「ワニ革の内装」

だが華やかな宴の直後、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は自らシンダラの閉鎖を命じた。当局者によれば、皇太子が激怒したのは「設計上の欠陥」と「無駄遣い」。なかでも建物の内装に希少で高価なワニ革を惜しげもなく使った判断が皇太子の怒りを招いたという。

親プロジェクトである壮大なネオム計画の旗を振るのはムハンマド皇太子自身だが、なぜか豪奢な造りに立腹したようだ。閉鎖の判断が最も「無駄遣い」につながるとも考えられるが、真意は知れない。

こうした騒動の末、国際企業もまた、容赦ない契約破棄という巻き添えを食らった。米建設業界専門誌のエンジニアリング・ニュース・レコードが今年3月に報じたところでは、ネオムの開発当局は総額60億ドル(約9700億円)を超える契約を一斉に解除している。

打ち切られたのは、イタリアのウェービルドが手がけていた山岳リゾート地区「トロヘナ」の根幹を握るダム3基と、同リゾートの建築構造物である「ザ・ボウ」。さらには、マレーシアのエバーセンダイによる鉄鋼供給、韓国・現代建設の全長12.5キロメートルの複線トンネルなど多岐にわたる。トロヘナで開催予定だった2029年アジア冬季競技大会も白紙に戻り、開催地をカザフスタンに譲った。

タイムズによると、遠大な計画を広げては風呂敷を畳む体質を、ドバイの方式に影響された「ドバイ病」と揶揄する向きもあるという。サウジのある実業家は、同誌の取材に対し、「弱点があった。誇大宣伝と派手さだ」と指摘している。