岐路に立つ「リヤドのエッフェル塔」
エルシェシュタウィ氏によれば、ムカーブではVR(仮想現実)の最新技術を活用した「前例のない体験」を味わうことができ、リヤドにとって、「エッフェル塔やシドニー・オペラハウスのように、その都市とひと目でわかる唯一無二のアイコン」になるという。
いまや都市の象徴とされる建築物でも、当初は酷評にさらされた例は少なくない。1889年に完成したパリのエッフェル塔も、市民や芸術家から、「建築上の汚点」と非難を浴びた。
エルシェシュタウィ氏はアラブ湾岸諸国研究所に寄せた2025年4月の論考で、1世紀以上を経たいま、エッフェル塔抜きにパリを思い描くことはほぼ不可能だと指摘し、ムカーブも、「リヤドにとってのエッフェル塔になり得る」と論じている。ただし、「それを実現するにはより持続可能なデザインが必要だ」という条件つきだ。
もっとも、エルシェシュタウィ氏自身も、ムカーブの巨大さから来る周囲への圧迫感には懸念を隠さない。新都市の中心部に、金色と黒の文様で覆い尽くされたキューブが直立する様子は、異様というほかない。
同氏は、一辺約230メートルの大ピラミッドが威容を保てるのは、都市の周縁部に位置するからこそだと認める。住宅地のただ中にそびえる一辺400メートルの立方体にあって、同氏が懸念するように「不可解で圧迫的なモノリス(巨大な塊)」にならない保証は、どこにもない。
住宅10万戸の空約束
ギガプロジェクトの華やかさとは裏腹に、リヤドの住宅市場では一般国民の暮らしが追い詰められている。
ニュー・ムラッバ地区が掲げた10万戸超の住宅供給計画。だが実際に建つのは、高級物件ばかりだ。中東ビジネス情報誌のMEEDが2025年10月に報じたところでは、新築住宅の価格帯は200万〜400万サウジリヤル(約8640万円〜1億7200万円。6月26日現在のレート、1サウジリヤル43.2円で換算、以下同)に集中している。ところがサウジの家庭の3分の2にとって、購入予算の上限は約120万リヤル(約5180万円)と、大幅な乖離がある。新築の大半は、そもそも手が届かないのだ。
住宅価格はなおも上がり続けている。不動産コンサルタントのナイト・フランクによれば、リヤドのアパート価格は2024年だけで約11%跳ね上がった。それでも人々が手にする給与はほとんど変わっていない。住宅価格が所得からかけ離れていく一方で、住宅の購入を計画している家庭の割合は2023年の40%から2024年にはわずか29%へと急落した。家を買うという選択肢を、多くの人々があきらめつつある。
だが、デベロッパーが追い求めるのは、あくまで利幅の厚い高級仕様の大型物件だ。このギャップの結果として、政府が本来最も支援すべき若い中間所得層の家族が、置き去りにされている。投機的な土地取引で地価はさらに吊り上がっており、最終的にそのツケを払わされるのは購入者だ。海外デベロッパーが持ち込むプロジェクトも、地元の家庭よりグローバル投資家や駐在員の需要を当て込んだ設計が目立つと、MEEDは指摘する。

