夢を諦めたサウジアラビア政府

ロイター通信は昨年10月、PIFが物流・鉱業・AIなど短期的に収益が見込める分野へ軸足を移していると報じていた。壮大な構想を捨て去り、手堅い収益を追求する姿勢へと、PIFは明らかに路線を転換しつつある。

ムカーブだけではない。サウジ政府が経済改革の柱として推進する「ギガプロジェクト」と呼ばれる超大型開発全体で、財布の紐が絞られつつあった。

UAE英字日刊紙のガルフ・ニュースが昨年6月に伝えたところでは、2025年のギガプロジェクト向け発注額はわずか40億ドル(約6470億円)。前年の240億ドル(約3兆8800億円)から実に6分の1に激減した。

構想では、ムカーブを中心に据える形で「ニュー・ムラッバ」地区が造成されるはずだった。

ムカーブのコンセプト画像
ムカーブのコンセプト画像(出所=サウジアラビア「ビジョン2030」公式ホームページより)

だが、地区全体のデベロッパー(開発主体企業)であるニュー・ムラッバ・デベロップメント・カンパニーのマイケル・ダイクCEO自身の発言の変遷をたどれば、このプロジェクトが徐々に勢いを失ってきた経緯が手に取るようにわかる。

イギリス人のダイク氏は昨年3月、カンヌの不動産見本市MIPIMで欧州不動産投資メディアのリアル・アセット・インサイトの取材に応じ、東京ドーム約32個分の容積にあたる約4000万立方メートルの掘削を終えたと胸を張った。夏から建設工事に着手すると述べ、完成目標は2030年だと強調した。

大口を叩いたCEOが漏らした本音

10月には完成目標についてさらに踏み込んだ。中東湾岸ビジネス誌のアラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトによると、ダイク氏はムカーブを「人類史上最も複雑な構造物」と認めたうえでなお、「2030年12月31日まであと2283日。その時点でダウンタウンの中核は稼働し、ムカーブは完全に機能した状態になる」と確約している。

ところが同じ10月、ダイク氏はトーンを後退させた。英国全国紙のタイムズによると、ダイク氏はリヤドの未来投資イニシアチブ(FII)で、「完成は名目上2040年だが、さらに後ろ倒しにするかもしれない」と語った。「スピードを上げる前に、いったん減速する判断を下した。大々的に宣伝しておきながら実態が伴わないのが最悪だ」とも述べている。2030年完成までのカウントダウンを自ら行った矢先に、完成が10年先送りされたことになる。

12月、リヤドの会議。ロイター通信によると、ダイク氏はなおも、「ムカーブに足を踏み入れれば、別世界に入ることになる」と聴衆に語りかけたが、その直後、「今日この世に存在しないものを実現しようとしている。かなり難しい」と本音を漏らした。

そして今年1月、ロイター通信は掘削と杭打ちを終えた段階で工事が凍結されたと報じた。プロジェクトがこの先どうなるのか、いまだ見通せない。